OS(全生存率)と免疫
最近では、腫瘍縮小はOS(全生存率)と必ずしも相関しないこと、劇的な腫瘍縮小というよりも、効果的な腫瘍破壊が最終的に長期のOSにつながると考えられるようになってきています。その一つの傍証として、L Apetoh 1らは(Nature Medicine 13, 1050-1059, 2007)、破壊された腫瘍由来のHMGB1が樹状細胞上のTLRを刺激して腫瘍免疫を賦活することが化学療法によるOS延長効果の主体であると報告しています。このことはがん治療による臨床効果、特にOSの延長には、現在3大治療として行われている標準的化学療法や放射線治療による大量の腫瘍破壊は必要でなく、免疫系を賦活できるだけの腫瘍破壊 (immunogenic cell death) で充分であることを示唆しています。私たちは、この考え方から、〝AKAGI Methods〟(赤木メゾット)を開発しました。
AKAGI Methodsについて
AKAGI Methodsは、がん免疫サイクルに基づいた免疫療法です。がん免疫サイクルは(図1)、7つのステップから成っています。①がん細胞の破壊 (immunogenic cell death)、②樹状細胞によるがん抗原の捕捉、③樹状細胞によるT細胞の教育、④教育されたT細胞 (キラーT細胞)が血管内を移動、⑤キラーT細胞の腫瘍内への浸潤、⑥キラーT細胞によるがん細胞の認識、⑦がん細胞の殺傷。
私たちは、AKAGI Methodsという免疫療法のなかのひとつのアイテムとして、今回の特集のメインテーマであるハイパーサーミアを使用しています。ハイパーサーミアは、このがん免疫サイクルのどの部分で働くのかについて、検討していきましょう。
まずは、①のステップでハイパーサーミアの電磁波により腫瘍部が42〜43℃になるとがん細胞が死滅していきます、これは免疫反応を惹起するためには大量のがん細胞の破壊は必要でなく、必要最低限のがん細胞破壊で十分だとするimmunogenic cell death(免疫原性細胞死)の考え方に繋がると考えられます。②のステップで働く樹状細胞をハイパーサーミアは活性化することで、③での樹状細胞によるT細胞の教育を増強します2 3。次に、④のステップで教育されたキラーT細胞は血流に乗ってがん細胞に運ばれていくわけですが、ハイパーサーミアはがん局所の血流を増加させることによってキラーT細胞ががん細胞周辺に浸潤するのを増強します。そして、最後の⑥のステップで、キラーT細胞はがん細胞を認識するわけですが、そのときキラーT細胞のT細胞受容体はHLAに提示されたがんペプチドを介してがん細胞を認識します。がん細胞はこのHLAを欠損しているものが多く、そうすることで免疫細胞から逃避しています。ハイパーサーミアはがん細胞でのHLAの発現を増強することが報告されており、それによってがん細胞は免疫に認識されるようになり免疫逃避を回避することができます 4。
また、最近ハイパーサーミアはがん細胞でのPDL‐1の発現を増強することが報告されています 5。ハイパーサーミアはがん細胞でのPDL‐1の発現を増強することによって、オプジーボの効果を増強すると考えられます。
オプジーボの臨床効果はあまり高くなく、通常20〜30%と言われています。現在、この臨床効果を増強する方法が各方面でさまざまに研究されていますが、ハイパーサーミアは上記の5つの作用によりがん免疫サイクルを活性化して、⑦のステップでのオプジーボの効果を増強することが考えられます。
AKAGI Methodsの効果
AKAGI Methodsは2013年より開始し、いろいろ改良をかさねながら約10年間で、およそ1000例の患者さんを治療してきております。AKAGI Methodsの10年間での5年生存率は約71%を示しています。
ここでAKAGI Methodsのなかの重要なファクターであるハイパーサーミア併用低容量化学療法について検討してみたいと思います。ハイパーサーミアは局所での血流量を増加させ薬剤の取り込みを増加させるため、抗がん剤の量を最大1/10まで減量することができると報告されており、私たちの経験では標準化学療法の約1/4〜1/5の量で上記したようなAKAGI Methodsの優れた臨床効果が得られています。
また、低容量のシスプラチン、ジェムザールやパクリタキセルはMDSC(骨髄由来免疫抑制細胞)を抑制することが報告されており、MDSCは、がん患者さんに誘導されるさまざまな免疫抑制細胞群のなかでも免疫抑制の主要な部分を担うものと重要視されています。そして、ハイパーサーミア併用低容量化学療法では、約6割の患者さんでMDSCの抑制効果とCD8+ killer T細胞の誘導効果が認められました。
以上のように、低容量化学療法併用ハイパーサーミアは、がん免疫サイクルにおいてファーストステップであるがん細胞の破壊、それも免疫反応を惹起するに必要充分ながん細胞破壊(immunogenic cells death)を起こすこと、そして、がん患者さんで免疫抑制の主体となっているMDSCによる免疫抑制を解除し抗腫瘍免疫を活性化することで、充分な臨床効果(OSの延長)を発揮するものと考えられます。
参考文献
1) Apetoh L., Ghiringhelli F., Tesniere A.,et al. Toll-like receptor 4–dependent contributionof the immune systemto anticancer. Nature Medicine 2007; 13: 1050-1059.
2)Matsumoto K., Yamamoto N., Hagiwara S.,et al. Optimizationof hyperthermia and dendritic cell immunotherapy for squamous cell carcinoma. Oncol. Rep. 2011; 25: 1525–1532.
3) Knippertz I., Stein M.F., Dorrie J.,et al. Mild hyperthermia enhances human monocyte-derived dendritic cell functions and offers potential for applicationsin vaccination strategies. Int.J. Hyperth. 2011; 27: 591–603.
4) Tomiyama C., Watanabe M., Honma T.,et al. The effectof repetitive mild hyperthermiaon body temperature, the autonomic nervous system, and innate and adaptive immunity. Biomed Res., 2015; 36(2): 135-142.
5) Yuya Ohta, Norihisa Ichimura, Satoshi Yamaguchi,et al. Mild hyperthermia upregulates PD-L1in the tumor microenvironment and enhances antitumor efficacyof PD-L1 blockadein murine squamous cell carcinoma. NagoyaJ. Med. Sci. 86. 497–506, 2024 doi: 10. 18999 /nagjms. 86.3. 497