アルファ・リポ酸点滴療法

アルファ・リポ酸点滴療法はがん治療の有力な選択肢の1つ
——柳澤厚生点滴療法研究会 会長に訊く

柳澤 厚生 国際オーソモレキュラー医学会 会長
点滴療法研究会 会長

 前号では高濃度ビタミンC点滴療法を特集しましたが、この療法にとても相性のよい療法にアルファ・リポ酸療法があります。アルファ・リポ酸療法もビタミンCと同じく抗がん作用を発揮し、かつ安全な療法と言われています。
 そして、ビタミンCと同時に使用することで相乗効果を発揮し、がん治療の効果がさらに高まるとのことですので、読者の関心も高いものと思います。
 この号ではアルファ・リポ酸点滴療法について、本誌に編集協力いただいております点滴療法研究会の柳澤厚生会長にお訊きしました。柳澤会長は、国際オーソモレキュラー医学会の会長もお務めで、多くの海外の著名な医師と親交があります。

抗酸化作用や解毒作用、肝機能の保護など私たちに有益な働きをしてくれます

——アルファ・リポ酸を初めて聞いた読者もいらっしゃると思いますので、アルファ・リポ酸とはどのようなものかお話しください。
柳澤 アルファ・リポ酸はチオクト酸とも呼ばれ、多数の動物や植物に存在しています。もちろん私たち人の体内にも存在していて、経口で摂取したり細胞の中のミトコンドリアの中でつくられたりしています。体内の酵素の働きを助ける補酵素として、糖や脂肪酸をエネルギーに変えるために必要なものです。
 また、抗酸化作用や解毒作用、肝機能の保護など、私たちに有益な働きをしてくれます。
 ちなみに、アルファ・リポ酸は脂肪に溶けるので「リポ酸」と命名され、酸化体である「ベータ・リポ酸」と区別するために「アルファ・リポ酸」と呼ばれています。
 アルファ・リポ酸には自然に存在する形態の「Rアルファ・リポ酸」と「Sアルファ・リポ酸」の2種類があり、市販のサプリメントにはRとSの両タイプが含まれています。
 当然に、Rタイプは体でつくられるものと同じ形態ですので吸収されやすく、がん細胞に進入しやすいとされています。
 効果は高いもののRアルファ・リポ酸は、Sタイプに比べて価格が高いという面がありますが、高額な抗がん剤と比較すれば取り入れる価値は十分あります。
——いつごろから使われるようになったのでしょうか。
柳澤 アルファ・リポ酸はチオクト酸とも呼ばれているとお話ししましたが、チオクト酸は50年くらい前から医療用医薬品として認可されています。注射用と経口投与されるチオクト酸アミドがあり、激しい肉体労働でチオクト酸の需要が増大した際の補給や亜急性壊死性脳脊髄炎、内耳性難聴に効果があるとされています。ドイツでは糖尿病神経障害や肝臓病の薬として認定されています。
——そんなに前から使われているのでしたら、実績もあり安全なものと言えますね。
 経口でも摂取できるとのことですが、どのような食物に多く含まれていますか。また、体内でもつくられているそうですが、年をとっても変わらずにつくられますか。
柳澤 牛や豚の肝臓や心臓、野菜ならホウレンソウやブロッコリー、ジャガイモなどに豊富に含まれています。良い食生活で環境も良好なら私は特にサプリメントなどでアルファ・リポ酸を摂る必要はないと考えていますが、現代社会では難しい面もあり、年齢とともに体内生産も減ってしまいます。

私のがん治療の基本の中にはアルファ・リポ酸は必ずあります

——それでは、アルファ・リポ酸とがん治療についてお伺いしたいのですが、もちろん先生も治療にアルファ・リポ酸は使われますね。
柳澤 私のがん治療の基本の中には、アルファ・リポ酸は必ずあります。理由としては、がんに罹ったときに不足する栄養素として、ビタミンCとD、セレン(微量必須元素)などの抗酸化物質とともにアルファ・リポ酸も不足するからです。そして、がん治療の効果を高めるには、これらは必須のものです。
——標準治療ではあまり指導されませんが、食生活を改善してそれでも足りない栄養素はサプリメントなどで補給しないと、治療効果が落ちるという話は今まで何人もの医師から伺っています。がん治療を受ける際は、オーソモレキュラー医学(分子整合栄養医学)を学ばれている医師の指導を受けたいと思います。
 そこで、先生が監訳、お嬢様が翻訳された『キャンサー・ブレイクスルー』は、オーソモレキュラー医学に精通されているスティーブ・ヒッキー先生とヒラリー・ロバーツ先生の著書ですが、戦略的ながんの栄養療法がいろいろと掲載されています。
 この本にも、アルファ・リポ酸の有効性について書かれていますね。
柳澤 『キャンサー・ブレイクスルー』には、「食生活の栄養不足はがんになる可能性が高まる」とか、「がんは嫌気性で砂糖が必要」など、医師だけではなく患者さんにも知っていただきたい内容が多く記載されています。
 そして、アルファ・リポ酸についてもその効果について書かれています。まず、アルファ・リポ酸は脂溶性でも水溶性でもあるので、体のどの臓器に対しても強力な抗酸化作用を発揮するということです。そして、ビタミンCと一緒に摂取すれば、さらに効果が高まります。
 アルファ・リポ酸は、ビタミンCと同じくがん細胞の中に過酸化水素やフリーラジカルをつくりだしますが、健康な細胞には影響を与えないとも書かれています。

ビタミンCと組み合わせるとさらに効果が高まります

——先生は素晴らしい本を日本のために訳されましたね。この本の中にも、アルファ・リポ酸とビタミンCとの相乗効果が書かれているとのことですが、この点を詳しくお願いします。
柳澤 アルファ・リポ酸は単独でもがん治療に効果がありますが、ビタミンCと組み合わせると、さらに効果が高まります。
 少し難しくなりますが、ビタミンCの持つ余分な電子が還元環境をつくり出して、その中でアルファ・リポ酸が強力な抗酸化物質として効果を発揮し、健康な細胞の抗酸化をサポートします。この組み合わせにより、ビタミンC単独の場合に比べて抗がん効果が5倍以上になるという相互作用をもたらします。それぞれの療法を単独で行った効力の和よりも、同時に使用したほうがより大きな効果が得られるということです。
 このことは、アメリカ・カンザス州にあり統合医療の最先端をいくリオルダンクリニックのニール・リオルダン博士の論文(写真)でも報告されています。
そして、この2つを組み合わせても、目立った副作用は報告されていません。
——アルファ・リポ酸は単独でも効果がありますが、ビタミンCと組み合わせると5倍の効果があるとは期待が高まります。相互作用による効果が、1足す1が2ではなく10以上になるというのですから。
 では、海外ではアルファ・リポ酸は普及しているのでしょうか。
柳澤 糖尿病治療ではヨーロッパで普及しています。がん治療に関してはアメリカで普及していて、その次が日本です。
 アメリカの「ニューメキシコ統合医療センター」所長のバートン・バークソン (Burton Berkson) 医師(写真参照)は、点滴療法研究会のボードメンバーでもあり旧知の間柄ですが、アルファ・リポ酸療法では世界的に著名な第一人者です。
 バークソン先生は、最初に高濃度ビタミンC点滴を行って、次にアルファ・リポ酸点滴を行うことで相互作用を得ていますが、これまでに肝臓がん、すい臓がん、悪性リンパ腫などの著効症例を論文発表されていて、多くの医師に読まれています。

経口摂取と点滴による投与とがあります

——がん治療では、すでにアメリカの次に日本がヨーロッパなどより普及しているとは驚きました。先生が点滴療法研究会を主宰されていらっしゃることが、大きな要因だと思います。本誌でも度々特集を組んできましたが、今回の特集でさらに周知が深まることを願っています。
 ここまでお話をお訊きして、アルファ・リポ酸を試してみたいという読者も多いと思いますが、具体的にはどのような治療となりますか。
柳澤 まず取り入れる方法として、経口摂取と点滴による投与とがあります。
経口で摂取する方法は医師がいなくても簡単に摂れますからその点では便利です。しかし、後から述べる点滴に比べるとアルファ・リポ酸の吸収率は劣ります。そしで、経口摂取後に体内から排出される速度も比較的速いので、摂取は3〜4時間ごとに摂るのが良いでしょう。
 点滴の場合で注意する点は、点滴療法研究会で学ばれた医師ならご存知ですが、点滴のバッグは必ず遮光します。生理食塩水を使用し、ブドウ糖などアルファ・リポ酸と結合して反応するような溶液は使用してはいけません。また、ビタミンCとの相互作用の話しをしましたが、血管痛を起こすことがあるのでアルファ・リポ酸の点滴バッグの中にビタミンCは混注しません。
 点滴時間は30分から60分で、初回投与量は150㎎が推奨されています。そして2回目からは患者さんの状態も考慮しながら、300㎎、600㎎と増量していきます。海外では、900㎎投与しているという症例もあります。
 点滴が終わったら、ビタミンB群の消費が亢進していますので、必ずビタミンB製剤を注射や点滴、または経口投与するか、先に高濃度ビタミンC点滴を行う場合は、ビタミンB群を入れておきます。
——アルファ・リポ酸で、注意しなければならないことはありますか。
柳澤 インスリン自己免疫症候群に注意しなければなりません。インスリン自己免疫症候群とは、すい臓で産生され血糖を低下させるインスリンに対して、自己抗体が産生されてしまい、体内で大量のインスリンが存在するようになり、極端な低血糖状態に陥ることを言います。
 また、稀ですがアルファ・リポ酸で低血糖をおこす遺伝的要素を持っている日本人がいるので、服用時また注射時には注意する必要があります。
 私は患者さんに、点滴の始まる2時間前に必ず食事を摂ってもらい、点滴の際には患者さんの手の届くところにジュースやプロテインバーを置いています。
 他には、稀ですが過敏症やアナフィラキシーの報告がありますが、これ以外の重篤な副作用はほとんど報告されていません。ただし、アルコールの摂取は点滴の効果を弱めるので禁酒することは必要です。

「がんに対するペニシリンである」と言えると思っています

——いろいろとご説明いただきまして、ありがとうございました。最後にアルファ・リポ酸による療法についてまとめていただけますか。
柳澤 がん治療において治療の選択肢が多いことは患者さんにとって有益なことだと思いますが、このアルファ・リポ酸は有力な選択肢の1つです。お話ししてきました通り、正常細胞は傷つけずにがん細胞だけに働き、がん細胞の中で過酸化水素を発生させがんをアポトーシス(細胞自死)に誘導してくれるからです。
 さらに、高濃度ビタミンC点滴療法と一緒に行えば、相互作用で大きな効果をもたらしてくれますので、がん治療につきものの副作用もまずありません。
 私はアルファ・リポ酸を「がんに対するペニシリンである」と言えると思っていますので、多くのがん患者さんにアルファ・リポ酸をよく理解していただきたいと願っています。
 

アルファ・リポ酸の国内製品と海外製品


がんの栄養療法について著されている『キャンサー・ブレークスルー』


リオルダン博士の論文


バートン・バークソン所長と柳沢厚生会長