年が明け、私のリオルダンクリニックでの研修も、いよいよ終わりが近づいてきました。今回は、リオルダンクリニックの研修で学んだ中で、最もエキサイティングな内容の1つである「24時間持続の高濃度ビタミンC点滴」についてお話しさせていただこうと思います。
ビタミンCを持続注入する点滴についての研究はリオルダンクリニックの他にも行っている医療施設はありますが、がん患者さんへの使用を積極的に行っているのは私の知る限りリオルダンクリニックだけです。
私はこの持続ビタミンC点滴で、今までの高濃度ビタミンC点滴では不可能だった様々なことが可能になると考えていますし、現在世界中で行われているリオルダンプロトコルの高濃度ビタミンC点滴に続く、次の世代のビタミンC点滴がこの24時間持続ビタミンC点滴だと思っています。日本に帰って、この持続点滴を実際にがんの患者さんへ使用するのが待ちきれないほどです。今月のリオルダンクリニック通信で、日本で初めて24時間持続ビタミンC点滴についてご説明できるのをとても嬉しく思います。
持続ビタミンC点滴とは
24時間持続点滴と言っても、必ずしも入院は必要ではありません。むしろリオルダンクリニックでは100%外来通院で行っています。持続点滴に使われる点滴バッグは小型で持ち運びが可能な形態となっているので、たとえば外出してお買い物へ行くのも、お家でシャワーを浴びるのも、日常生活にほとんど影響を与えません(図1:点滴バッグの1例)。もちろんクリニックへの通院は、点滴バッグへビタミンCを補充するため必要ですが、点滴期間は2週間ほどなので患者さんへの大きな負担にはならないと思われます。
ビタミンCの注入速度も、高濃度ビタミンC点滴とは違いとてもゆっくりなので、ビタミンC点滴で起こる可能性がある、点滴直後の吐き気や気持ち悪さ、点滴注入部のピリピリした痛みなどはありません。 ビタミンCが大量に持続的に補給されるため、低カリウム血症や腎結石の既往がある人は、念には念を入れて気をつける必要がありますが、ビタミンC溶液は温度や光の下でも非常に安定していることもあり、かなり安全性が高い治療です。
実際に24人の進行がんの入院患者さんを対象とした、リオルダンクリニックとネブラスカ大学の研究では、好中球、リンパ球比などの生存期間に関連するいくつかの重要なパラメーターが改善し、また副作用も軽いものがほとんどでした。
がん治療でのビタミンC点滴のメリット
ご存知のように、高濃度ビタミンC点滴には様々なメリットがあります。アメリカ国立衛生研究所の研究で有名な、過酸化水素の発生によりがん細胞を直接殺す効果の他に、ビタミンCは様々な転写因子および細胞シグナル伝達経路に対して調節する効果を持っており、がんの血管新生を抑えたり、アポトーシス経路を活性化させたりすることが示されています。またそれだけではなく、ビタミンCがコラーゲンをつくる働きがあることをご存知の方も多いと思いますが、この作用を利用してビタミンCががんをコラーゲンで包み込みカプセル化して、転移を減少させることも動物モデルで示されています。 この他にも、ビタミンCがゲノムの発現をコントロールしてがんの浸潤を抑えたり、サイトカインを調節して炎症を抑えたり、ビタミンCががんに果たす効果は、ご紹介するのが大変なほどたくさんあります。
持続ビタミンC点滴を行う必要性
過酸化水素を発生させてがんを直接殺す効果は、高濃度ビタミンC点滴によって到達する高い血中濃度でないと起こりませんが(図2のフェーズ5)、その他のがんの成長を抑制したり転移を抑えたりする効果は、低濃度の血中ビタミンCレベルでも、起こると考えられています(図2のフェーズ4)。
つまり持続ビタミンC点滴は、今まで達成できなかったリポスフェリックビタミンCなどを大量に内服して得られるフェーズ3の血中レベルと、現在盛んに行われている高濃度ビタミンC点滴のフェーズ5のレベルの間を埋めるフェーズ4の血中レベルをターゲットとしたものになります。
これは動物研究の結果にはなりますが、ビタミンCの点滴はより頻繁に行うほうが効果が高いことが示されています。また、図3を見ていただくと、高濃度ビタミンC点滴を行った後、折れ線グラフが示すように血中濃度が減るに従い、棒グラフによって表される腫瘍細胞の数が増えてくるのがわかると思います。
このように、持続点滴を高濃度ビタミンC点滴に併用することで血中濃度の低下を緩やかにし、持続的に高いレベルのビタミンC濃度をキープすることができます。これにより、高濃度ビタミンC点滴のメリットを最大限享受しながら、低濃度でも発揮されるその他のビタミンCの効果も同時に得ることができるのです。
持続ビタミンC点滴の方法
簡単ですが、ここで具体的な方法についてご紹介しようと思います。持続ビタミンC点滴はリオルダンクリニックでは高濃度ビタミンC点滴と合わせて、2週間のプログラムで行っています。
たとえば月曜日が初診日だった場合、点滴前の検査や診察を終えた後に、1回目の高濃度ビタミンC点滴を行います。その後、針を持続点滴のポンプに繋ぎ直し、持続点滴をスタートします。ポンプの大きさにもよりますが、小さいポンプを使った場合は翌日に再度ポンプにビタミンC溶液を補充するため、クリニックに来ていただきます。次の高濃度ビタミンC点滴は水曜日なので、火曜日は持続点滴のポンプを補充するだけで終了です。大きなポンプを使った場合には、48時間持続注入が可能なので、火曜日の再診は必須ではありません。翌日の水曜日には再度高濃度ビタミンC点滴を行った後、月曜日と同じ要領で持続点滴を再開し、次の金曜日の高濃度ビタミンC点滴まで同じことを繰り返します。土曜日と日曜日には点滴は行わないので、金曜日に高濃度ビタミンC点滴の3回目と、検査を行った後は、持続点滴も1度休憩になります。この1週間のメニューを2回(2週間)行います。もちろんその後も高濃度ビタミンC点滴などは続けても大丈夫ですが、持続点滴による治療は一旦終了となります。
高濃度ビタミンC点滴が多くの患者さんに受け入れられつつあるなかで、私の大好きなビタミンCの新しい可能性を秘めたこの持続点滴が、日本やアジア、いや世界中のがんの患者さんの未来を照らす新しい治療法になることは間違いないと確信しています。