がんの免疫療法には多くの種類が
現在、ひと口にがんの免疫療法といっても、数多くの種類が存在します。そして、それぞれの治療法は下記のいずれかに分類することができます。
⑴自然免疫か獲得免疫か?
⑵特異的か非特異的か?
⑶能動的か受動的か?
また、目的によってそれぞれの評価方法が異なっていますが、基本的には健康維持や術後の再発予防などの予防目的か、進行がんに対しての延命や治癒を目指した治療目的かに分けられます。
免疫療法により進行がんの治療を考える場合、その評価を的確にしてゆくことが求められます。その為には、①どのような免疫療法を考えるか? ②その治療評価は、いつどのように行なうか? ③免疫療法に対する耐性化の問題をどのように解決するか? ④治療経過に沿って免疫療法をどのように組み立てるのか? などの問題に対して検討が必要になります。
「自然免疫」と「獲得免疫」の2段構え
まずは本題に入る前に、上述のからだの防御システムについて簡単に説明させて頂きます。免疫によるからだの防御は「自然免疫」と「獲得免疫」の2段構えになっていて、体内に異物が侵入すると、最初に自然免疫が作動します。しかし、自然免疫の力だけでは対応しきれない場合、獲得免疫が働くことになります。
特に、がんのように多様性に富んだ動きをする細胞に対しては、獲得免疫の力が不可欠とされます。その主な理由は、形質を変えながら逃げ回るがん細胞を追随して、抗原情報をアップデートする対策が必要だからです。
その獲得免疫を応用した免疫療法には、受動免疫療法と能動免疫療法がありますが、受動免疫療法の代表にCAR—T療法や抗体療法があり、能動免疫療法にはがんワクチン療法があります。
治療型能動免疫療法の評価について
このようにさまざまな療法が存在する中で、がんにならないため、或いは術後の再発予防を目的とした「予防型」と、すでに腫瘍として存在するがんを排除するための「治療型」に分類されます。
予防型の場合は、評価としてがん化率、生存率、無病期間などの指標が用いられますが、今回は治療型能動免疫療法の評価についてご紹介いたします。
⑴画像による評価
抗がん剤や分子標的薬の有効性は腫瘍縮小効果として明確に現れますが、放射線治療や免疫療法の腫瘍縮小効果は、遅れて出る傾向があります。放射線治療で3カ月後、免疫療法の場合、6カ月程度を要する場合があります。そのかわり途中から悪化することなく、ゆっくり着実に縮小してゆくのが特徴です。もうひとつの評価法として、腫瘍の活動性をPET—CTを用いて評価する方法があります。その場合は3カ月程度で腫瘍へのFDG(PET—CT検査に使うブドウ糖によく似た薬)の取り込みが減少することが評価の条件となります(図参照)。
⑵血液検査による評価
血液検査での治療評価には、当然ながら腫瘍マーカー値の低下が必須の条件になります。同時にCRP、LDH、フェリチンなどの炎症性マーカーの低下も補助的な指標として有用です。
いずれの抗がん治療に関しても同じですが、腫瘍細胞が障害を受けた場合、一過性に腫瘍マーカーの上昇をみることが多く、その後低下に転じる例が少なくありません。がん細胞の種類によっては、腫瘍マーカーの産生が少量であったり、検出されない場合もあります。その場合には画像診断による評価が中心になります。
⑶免疫能検査による評価
特異的能動免疫療法の場合、そこに関与する細胞はCD8陽性のCTL(キラーT細胞)やNKTが関与する場合が多く、治療前後を比較してCD8陽性細胞の上昇が評価の重要な基準となります。
また、治療開始当初はCD8陽性細胞が中心となってがん細胞と戦いますが、病状の進行により獲得免疫が疲弊してくると、それを補助する形で自然免疫が動き出し、NK細胞の絶対量が増してきます。
このように免疫療法も標準治療と同じように耐性化があり、抗腫瘍効果の低下を認めます。現在、筆者のクリニックではそのように免疫の耐性化に関わる疲弊化因子を臨床検査として導入中です。
⑷自覚症状による評価
一般論として免疫機能は体力を測る上で重要な指標と言われています。免疫力の上昇は基礎体力の指標とも言えるため、疲労や倦怠感の改善は生活の質(QOL)の改善にも繋がります。さらに腫瘍の縮小は、痛みの軽減など腫瘍の局在や大きさによるさまざまな症状の改善にも影響します。
⑸病状経過による評価
特異的能動免疫の進行がんに対する治療評価は、主に治療部位の縮小の確認と同時に、新しく発生する転移巣(新病巣)の数が評価のたびに減少していることが、治療経過をみる上で重要な判断材料となります。
治療が順調に進んでいる場合は、病巣数の減少と共に新病巣の出現も減少していきますが、耐性化や病巣の形質が変わり、更なる増殖期に入ったりすると、新病巣の数が増え、結果的にがんの進行を許し、治療に失敗することになります。
標準治療の力を借りて免疫細胞の処理能力を補う
最後に免疫の力によるがん細胞の処理能力には限界があり、もしがん細胞の増殖がそれを上回る場合は、当然ながら新病巣の数が増えることを意味しています。従って、それに対して標準治療の力を借りて免疫細胞の処理能力を補うことができれば、新病巣の減少へ導くことが可能となり、治癒が見えてくる結果に繋がります。