連載 リオルダンクリニック通信⑩

医薬品のオフラベル(適応外使用)使用を用いた、がんの代謝を標的とした治療

 
増田陽子 リオルダンクリニック フェロー 医師

 2019年12月号のリオルダンクリニック 通信で、「⑦がんのホールマークにアプローチする治療こそ究極のがん治療」と題して、がんの代謝を標的とした治療の概要をご説明しました。
 今回は、医薬品のオフラベル(適応外使用)使用を用いた、がんの代謝を標的とした治療をさらに詳しくご紹介いたします。アメリカや欧州を始め世界で注目を集め始めており、わたしは、この方法こそが、がんの種類やステージに関係なく、がんの成長や転移する能力を弱め、がんを克服する可能性を秘めた方法であると考えています。

がんの代謝療法とは?

 簡単に復習すると、ほとんどのがん細胞は、酸素や栄養素の需要、血管の新生、細胞が増殖する速度などが健康な細胞とは異なることが知られているのですが、グルコースやコレステロール、タンパク質の利用を標的とする薬を使うことで、「がん細胞の代謝異常に対して影響を与えることができる」という方法です。
 また、この方法の面白いところは、すでに市場にある薬、たとえば抗生物質や高脂血症などに対する薬を、がんに対してオフラベルで使用するところです。現在開発されている新薬の多くはがんの免疫システムに対するものなのですが、これらの新薬は開発に時間がかかり、未知の副作用があり、おまけに高額になることが多いのです。一方、オフラベル薬であれば、低コストで、すでに安全性が広く確認されている薬を使うことができます。もちろん効果の面でも、最近ではもともとがん以外の病気に対してつくられた薬が、様々な抗がん効果があることが広く認識されるようになっており、大規模な臨床研究がある薬も多々あります。

抗がん効果と、適応外処方薬を使う難しさ

 たとえば、糖尿病の薬であるメトホルミンと高コレステロールの薬であるアトルバスタチン(親油性スタチン)の抗がん効果は、過去数十年にわたるたくさんの論文で証明されています。これら適応外処方薬の抗がん効果は実に様々で、がん細胞の成長、増殖、アポトーシスおよび血管新生に関与する経路を調節したりします。
 脳腫瘍の中でもっとも悪性のがんである膠芽腫でさえ、標準治療にメトホルミン、アトルバスタチン、メベンダゾール、ドキシサイクリンを追加することで、2年生存率を通常の28・7 %から64%と、大幅に改善する結果が出ています(図1)。
 最近になってやっと、がんに対する適応外処方薬のプラセボ比較化試験が行われ始めているのですが、ここまでの道のりは決してスムーズとは言えないものでした。
 というのも、いくらメトホルミンががん治療に有望だったとしても、これらの薬は特許が切れており、大規模なランダム比較化試験にかかる数億ドルを製薬会社が負担する経済的メリットはありません。臨床医もまた、医薬品の適応外処方は非がん性の病気では一般的ですが、適応処方するときと比べて大きな責任が処方する臨床医に発生するため、がんに対して臨床医が適応外処方をすることに消極的になることは理解できます。

世界を牽引するCOC

 この方法を世界に先駆けて行っているのは、イギリスの「ケアオンコロジークリニック(COC)」という民間の医療機関で、提携する病院がアメリカやドバイ、オーストラリアなどの世界中に提携病院・クリニックがあります。悲しいことにアジアには現在のところ提携している医療機関がないのですが、実は現在COCと提携する準備を進めています。自分が日本に帰国したら、高濃度ビタミンCと一緒にこの方法もぜひ導入しようと考えています。
 また『How to Starve Cancer』の著者のFacebookのグループ、「Jane McLelland Off Label Drugs for Cancer」:https://www.facebook.com/groups/off.label.drugsforcancer/ では、患者さん同士が、ご自身の代謝療法のプロトコルや体験談などが活発に共有されており、とても参考になり勇気付けられるのでおすすめです。

具体的な方法

 自分でも代謝療法についてもう少し勉強したい方のために、具体的な方法についてご紹介します。
 まずは、一般的な病理検査やCTC検査などで、ご自身のがんの特徴を知ります。たとえば、グルコース(糖質)をメインで栄養にするがんだったとして、好気性解糖が亢進しているのか、酸化的リン酸化なのか、それともGlut1(1型グルコース輸送体)が増えているのか、という感じです。もちろん、がんの種類によって栄養にしやすいものの傾向があるのでそれを参考にしてもよいですが、ご自身の検査を行えたらさらに自信を持って治療ができます。
 一般的にがんの栄養になりやすいものとしてグルコースが有名ですが、もちろんグルタミン(タンパク質)や脂肪酸(脂質)も無視できません。がんは1つの栄養素が利用できないとなるとすぐに変化して、他の栄養素を利用し始めます。そうしてがんの耐性化が進むので、糖質、タンパク質、脂質、すべて同時に対応することが大切です。
 こうしてご自身のがんの特徴がわかったら、それに対して1つ1つ対応していきます。図2にあるように、たとえば前立腺がんやメラノーマ、バーキットリンパ腫やGBMなどで脂肪酸酸化が亢進している場合には、ドキシサイクリンやミルドロネートでこの経路を阻害できますし、Glut 1受容体が細胞表面にあるタイプなら、スタチンやケルセチンが使えます。
 膵臓がん、HER2陽性乳がん、トリプルネガティブ乳がんでアップレギュレートされがちなマクロピノサイトーシスが認められれば、クロムピコリネートといった具合です。これらすべてに対応したら、使う薬剤やサプリメントがとんでもなく多くなってしまうと心配されるかもしれませんが、これらの薬剤や天然のサプリには「多面的」に作用する働きがあるので心配しないでください。たとえばベルベリンは、インスリン、酸化的リン酸化、ステロール調節末端結合タンパク質-1、グルタミン酸化的リン酸化、mTORの阻害を1剤で同時にカバーできます。
 難しい医学用語がたくさん出てきて混乱されるかもしれませんが、どの経路がどのように働くか完全に理解していなくても大丈夫です。悲しい事実ですが、一般読者と同様に多くの腫瘍内科医もよく知らないでしょう。
 このマップを利用して、できるだけ多くの方がご自身の経路を阻害することで、がん幹細胞の栄養のパイプラインをブロックすることが重要です。

 

図1


図2