連載 第83回 「医師である私ががんになったら」

自然療法と機能性医学の基本検査を重視
——体の機能を損ねるような治療は緊急事態でもない限り、がんの治療としては選択肢から外すべきである。

 
取材協力● 齋藤信子   BFLクリニック院長

 もし〝がん〟になってしまった場合、当然医師に診ていただくことになりますが、医師によって治療法が異なる場合があります。最近はセカンドオピニオンも定着してきましたが、なかにはいまだに患者さんから「セカンドオピニオンを受けるなら他の病院に行ってくれ」などと主治医に言われたという話も聞きます。
 そこで、医師自身のがんに対するお考えや、どのような選択を取られるのかなどをがん治療で活躍されている先生にシリーズにてお聞きしています。
 今回は西洋医学一辺倒の医療に疑問を抱かれ、ニュージーランドに移住して自然療法や機能性医学を研究し、またセロトニントレーナー、分子栄養学、腱引き、ヘルスコーチングなどの専門知識を習得されるとともに、キレーション療法や高濃度ビタミンC点滴と認知症に対するリコード法の認定資格も取得されたBFLクリニック(静岡市)の齋藤信子院長にお話を伺いました。
 齋藤院長は「ウェルネス&ヘルシーエイジング」協会を設立され、全国各地で機能性医学に基づいたライフスタイルの改善についての講座を開催されています。

取材・構成 吉田 繁光 本誌発行人

私自身のがん予防法は5つ。がんは体の内外の環境の悪化により細胞機能が損なわれて発症する

——がんは早期発見が大事だと言われますが、かからないことにこしたことはありません。先生はがん予防に何かされていますか。
齋藤 実は、15年前に私は早期の子宮頸がんに罹患しました。当時、がん予防は全くしていませんでした。しかし、その後兄は食道がんになり従妹たちは乳がんになり、徐々に私の考えは変わり、今は熱心にがん予防をしています。
 私は、がんは体の内外の環境の悪化により、細胞機能が損なわれて発症すると考えています。
 私自身の具体的ながん予防方法は、体の外の環境の悪化に対しては空気清浄機を使い、なるべくプラスチック製品を買わないし使わない、身の回りのものは自然素材のものを選ぶようにしています。これらをすべて完璧に行うことはできていませんが、できる範囲で環境に配慮した生活を心がけています。
 次に、体の中の環境の悪化に対しては、第1に単純炭水化物の摂取は可能な限りしないようにしています。リブレという、血糖の上下の推移を調べることのできる2週間貼ったままの検査機器があるのですが、その愛用者です。このリブレを利用して、血糖値のコントロールを真剣に行っています。これは、がん予防に限らず認知症予防にも効果があるはずです。
 第2に、どんなに忙しくても睡眠時間を最低7時間は確保するように決めて実行しています。また、中程度の睡眠時無呼吸があるので、自費でCPAPという機器を購入して睡眠の質も良くするようにしています。
 第3はオーガニック食品を選び緩い菜食主義を実行し、第4はよく歩き、第5はなるべくニコニコと明るく生活することを心がけています。
 私の行っている「体の内外の環境を整えて人体の機能を回復する」がん予防は、がんに限らず各種疾患の治療にも使えると考えていますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
——早期子宮頸がんにかかられたということは、検診で見つかったのでしょうか。現在、早期発見のための検診は受けていますか。
齋藤 検診ではなく、たまたま他の理由で婦人科を受診して、運よく発見していただきました。その後も私は全く懲りていなくて、1度もがん検診は受けていません。
 しかし、自分のクリニックで行っている機能性医学の基本検査は、体の機能が損なわれていないかの検査として今年から行い始めましたので、これは今後も続ける予定でいます。がんができにくく、もしできた場合でも自己治癒力で治せるような状態かどうかを、この検査で1年に1回調べたいと思っています。
 過労は避け、睡眠時間を確保し、酒を飲まず、サプリメントの力も借りる
——15年前に実際に受けた治療法をお聞かせください。また、その後自然療法や機能性医学をご研究されたとのことですが、今だったらという変化がありましたら教えてください。
齋藤 そのとき私は40歳代前半でした。まだまだやりたいことがたくさんあり、絶対に治したいと強く思いました。病期は幸いⅠA1期でした。主治医に勧められるまま単純子宮全摘手術を経腟手術で、診断から3カ月後に受けました。
 腹腔鏡手術よりもさらに侵襲の少ない経腟手術で行えたので手術後の回復はとても早くて、当時は非常に良い治療の選択ができたと満足していました。そして手術後も、手術前と悪い意味で全く同じ生活に復帰できました。過労、睡眠不足、飲酒などを続けました。
 今だったら、私は全く違う選択をしたとはっきり言えます。まず、第1に、その後の妊娠を望まないのであっても子宮の一部分を手術する円錐切除を選択します。子宮を全部取ってしまうと卵巣が残っていても卵巣機能がほぼ1年で損なわれると機能性医学で知ったからです。この理由だけではないかもしれませんが、私の場合は実際に女性ホルモン異常による症状が実年齢よりも早く訪れました。
 第2に、手術前の3カ月の間に「高濃度ビタミンC点滴」を行い生活スタイルも改善し、具体的にはがん予防として今私がしていることとしてお話ししたような生活を、今以上に完璧に行います。願わくは手術までにがんが縮小するか、できれば消えるように思いっきり努力します。もちろん、過労は避け、睡眠時間は何が何でも確保して、お酒も飲みません。サプリメントの力も借ります。
 自然療法や機能性医学を知るようになったことで、そもそもがんは自分の体が機能的に働いていない結果であるのでまず機能を治すべきであり、体の機能を損ねるような治療は緊急事態でもない限り、がんの治療としては選択肢から外すべきだと考えるように変わりました。
 私が有効だと考える治療法は、進行したがんであっても「ある」と信じている。私の気持ちを理解してくれる医師にかかり、納得できる治療を続ける
——今お話しになったことで、仮にがんの発生時期が今より先の老年期になった場合であれば、何か違いがあるかお話しください。
齋藤 老年期になっていても、基本的に違いはないと考えています。しかし、いろいろな意味でサポートしてくれる家族や友人の状況や経済状態によっては、選択できる治療法が違ってくる可能性はあると思います。
——考えたくないことですが、万が一がんが進行して、医師より「もう治療法はない」と言われたらどのようになされますか。  
齋藤 どのような考えの医師がどのような考えの下で「もう治療法はない」と言ったかについて、冷静になって考えてみます。あまりに自分の考えと異なるようであれば、その医師からは離れると思います。
 もともと私はあきらめることが苦手で嫌いな性格ということもありますが、私が有効だと考える治療法は進行したがんであっても「ある」と信じていますので、その私の気持ちを理解してくれる医師にかかり、自分の納得できる治療を続けることになると思います。
 患者としての私が「もう治療法はない」という言葉を主体的に捉えどう考えるかが、その後の方向性を決めるのであって、単純に他者の言葉では変わらないと考えています。その点では患者としての私は、あくまで主体的かつ強くありたいと思っています。