連載 第81回 「医師である私ががんになったら」

「これは無理だな」と思うほど進行した患者さんでもまずはガイドラインに沿った標準治療を行い、そして、その効果を少しでも上げるような補完医療も行う

 
取材協力● 木村洋平 医療法人至捷会 木村病院 理事長

 もし〝がん〟になってしまった場合、当然医師に診ていただくことになりますが、医師によって治療法が異なる場合があります。最近はセカンドオピニオンも定着してきましたが、なかにはいまだに患者さんから「セカンドオピニオンを受けるなら他の病院に行ってくれ」などと主治医に言われたという話も聞きます。
 そこで、医師自身のがんに対するお考えや、どのような選択を取られるのかなどをがん治療で活躍されている先生にシリーズにてお聞きしています。
 今回は、開業以来40年にわたり地域の中核病院として地元に根差した医療を展開してきた、医療法人至捷会木村病院(福井県あわら市)の木村洋平理事長にお話を伺いました。木村病院は、真心を込めた最良の医療を職員一体となって提供する『心医体』を理念としています。
 そして、高濃度ビタミンC点滴療法やキレーション治療、腸内フローラ移植など幅広い治療の選択肢も用意して、統合的にがん治療に取り組んでいらっしゃいます。

               取材・構成 吉田 繁光 本誌発行人

 

適度な運動を欠かさず行い、定期的なビタミンC点滴と腸内フローラを重視したサプリメントの摂取

——がんは早期発見が大事だと言われますが、かからないことにこしたことはありません。先生はがん予防に何かされていますか。
木村 幸い家族に遺伝性のがんの罹患もなく、年齢的にもがん予防を意識して行っていることはありません。がんとは遺伝子の異常だけではなく、環境因子でもリスクが上がることはよく知られています。環境による慢性的な炎症の継続や、酸化ストレスの蓄積によりがんは発生するという仮説も最近注目されています。私は数年前からアンチエイジングの分野にも取り組んでおり、老化もまた、慢性炎症や酸化ストレスなどが原因とされています。この数年でいかに炎症を抑え、酸化ストレスを軽減させるかということを意識するようになり、結果的にがん予防につながっていたと思います。
 具体的には、まずは、食事について気をつけるようになりました。妻も医師で、私といっしょにアンチエイジング医療を行っております。その1つに栄養学(特に分子栄養学)を取り入れた栄養診断や、医学的な視点でのお料理教室を開いています。
 ビタミンやミネラルの重要性はもちろん、加工食品などに含まれる添加物の種類にも着目しています。自然に栄養と疾患との知識が深まって、家での食事もこだわりの材料や調理方法のものが多くなりました。これらは私が気をつけているというよりも、妻のおかげです(笑)。
 また、適度な運動も欠かさず行っています。趣味はゴルフですが、ラウンド中はカートを使用せず可能な限り歩くようにしています。あとは、定期的な高濃度ビタミンC点滴や腸内フローラを重視したサプリメントの摂取を心がけています。
——奥様の功もあって食生活に留意され、運動も定期的に行われ、高濃度ビタミンC点滴も受けられていらっしゃるのであれば、十分がん予防されていらっしゃると思います。
 それでは、早期発見のための検診はどうされていますか。
木村 一般的な年齢に伴う検診を行っているだけですね。採血、レントゲン検査、胃カメラ程度です。しかし、今年40歳になりましたので、区切りとして全体のスクリーニングをかねていろいろな検査を行うことを考えています。
 一般的ながん検診についてですが、専門が消化器外科、特に大腸領域の症例を多く経験してきたため、便潜血検査の重要性は大きいと考えています。しかし、大腸という臓器を調べる羞恥心や、「自分は痔があるからいつもひっかかるんだ(偽陽性)」ということで、その後の精密検査である大腸カメラを受けられない方が、他の臓器の精査よりも多い傾向にある印象です。確かに大腸カメラは前処置にも時間を要するし、検査中も侵襲が高い検査なのでお気持ちはわかりますが、日本では大腸がんが年々増加の一途をたどっていることを考えると重要な検査と考えています。
 がんになったら、自分のがんの進行度や性質を調べて治療法を選択しベストに近い対応をする
——残念ながらがんになってしまった場合はどうされますか。治療法をお聞かせください。
木村 今の時点では、正直あまり考えたくないですね。しかし、がんの罹患率も上昇しており、臨床現場でも検診や診療でがんを発見するケースは多いです。ですから自然とがん患者さんと向き合う機会が多いので普段から自分ならどうするかということは少なからず考えています。まずは、自分の患ったがん種の性質と進行度に対する予後を分析します。現在のがん治療の目的として大きく2つあります。①根治的治療と、②対処的治療です。根治的治療の場合は根治率も出ています。対処的治療であっても、根治の可能性は0ではありません。
 また、さらに細かい話になりますが、がん細胞にもいろいろな性質があります。進行の早い種類や、逆におとなしい細胞もあります。自分のがんの進行度や性質を調べて、治療法を選択すると思います。がんと言ってもさまざまなパターンがありますので、性質を知りできる限りベストに近い対応をしていきます。
——今お話しになったことで、仮にがんの発生時期が今より先の老年期になった場合であれば、何か違いがあるかお話しください。
木村 今、私は妻と4人の子供と一緒に暮らしています。一番上は12歳、下は3歳になりました。仮に今私が何らかのがんになった場合には、まずは自分よりも家族を優先させた治療を選択するでしょう。それが、私の義務だと思っております。
 そのためには、1日でも長く生き、欲を言えば一日でも長く仕事ができ家族を養っていける治療方法を選択します。たとえば、副作用が強く仕事が継続できない治療は、もしかしたら拒否するかもしれません。仮に老年期に同じがんを患った場合には、以上の考えには変化があるのではないかと思います。人生100年時代に突入する現代において、40歳はまだ折り返し地点にも立っていません。死を身近に感じていないのが現状です。
 しかし、数十年経過し子供も成人し、手から離れた時期であれば、どう人生の終焉を迎えるかを具体的に考えるようになると思います。その時期に選択する治療方法はもしかしたら、1日でも長く生きる方法よりも、充実した時間を1日でも長く過ごせる方法を選択するかもしれません。できれば、両方が叶う治療方法が選択できることを祈ります。
——考えたくないことですが、万が一がんが進行して、医師より「もう治療法はない」と言われたらどのようになされますか。 
木村 実際、「これは無理だな」と思うほど進行した患者さんでも標準治療を行うことで、劇的にがんが縮小し、根治治療まで到達した経験があります。なので、まずはガイドラインに沿った治療を行うでしょう。そして、できれば、その効果を少しでも上げるような補完医療も受けると思います。
 免疫賦活剤などの登場でもわかるように、がんは自身の免疫細胞が活性化することで倒すという考えが最近増えてきました。実は化学療法に使われる抗がん剤も、がんそのものに作用するだけではなく、自身の免疫細胞が活性化されることで治療効果を及ぼしているという考えもあるそうです。だとすると、少しでも自身の免疫細胞を賦活化させる治療を併用することにより、がんの縮小に期待が高くなると考えています。
 具体的には、超高濃度ビタミンC点滴や免疫療法、がんワクチンなども興味深いところです。常々考えていることですが、保険治療と保険外治療は相反するものではなく、お互いの良い点を出し合って相乗効果でがんの治療を行うことが最善だと思っています。大学病院の医局員として勤務している頃は視野が狭く、統合医療に対しては興味を持っておりませんでした。
 しかし、2年ほど前から統合医療と出会い、知識を深めていくと科学的に証明されている治療や、非常に有効性が高い可能性がある治療も数多く存在し、ぜひ自院でも導入していきたいという気持ちになりました。もちろん、治療を希望される患者さんには、治療の原理などを一から説明し、納得していただくことを心がけています。当院では主に高濃度ビタミンC点滴療法を中心に補完医療としてのがん治療を行っておりますが、徐々に患者さんの需要も増えてきており、治療効果も実感しています。
 これからも、一般の方への統合医療が身近なものになるよう、窓口を広めていきたいと思っています。

 

木村洋平理事長