連載 第80回 「医師である私ががんになったら」

「自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、
害と知る治療法を決して選択しない」

 
取材協力● 金谷憲明   札幌麻酔クリニック 院長

 もし〝がん〟になってしまった場合、当然医師に診ていただくことになりますが、医師によって治療法が異なる場合があります。最近はセカンドオピニオンも定着してきましたが、なかにはいまだに患者さんから「セカンドオピニオンを受けるなら他の病院に行ってくれ」などと主治医に言われたという話も聞きます。
 そこで、医師自身のがんに対するお考えや、どのような選択を取られるのかなどをがん治療で活躍されている先生にシリーズにてお聞きしています。
 今回は、「すべての患者さんに最善の治療を提供すること」を目指し、個々の症状に合わせたオーダーメイドの治療を行っている、札幌麻酔クリニックの金谷憲明院長にお話を伺いました。こちらのクリニックでは、高濃度ビタミンC点滴療法をはじめ、栄養療法、オゾン療法、水素療法など幅広い治療選択肢を用意されています。

取材・構成 吉田 繁光 本誌発行人

がん予防で重視しているのは、食事療法、運動療法、サプリメントの3つ

——がんは早期発見が大事だと言われますが、かからないことにこしたことはありません。先生のがん予防に関するお考えをお聞かせください。
金谷 がんは現代日本では死因の第1位であり、ほとんどの人にとっては避けては通れない問題です。しかし、多くの健康な人にとって病気自体が他人事であり、自分が病気にかかってみて初めてわが身のこととして真剣に考えますが、がんは他の生活習慣病と違いゆっくりと病気に取り組む時間を与えてくれません。
 一般には、がんは早期発見、早期治療が大切と言われます。私が医学を勉強した時代から、大学病院を中心に教える医学教育はそのように指導されてきました。しかし、近年少しその風向きが変わってきました。日本では、平成19年に始まった第2期がん対策推進基本計画に基づいて10年間でがん死亡者を20%減少させるために、①手術療法、②化学療法、③放射線療法のがん医療を充実させて、早期発見と早期治療に努めました。その結果は約15%の減少で、残念ながら目標には到達しませんでした。
 その後に続く第3期がん対策では、がんの早期発見よりも予防こそ大切だと、方向転換をしました。しかし、多くの国民はこのことを知りません。これは、日本医学会の怠慢だと思います。自らの見込み違いを素直に公表して、国民に見立て違いであったことを詫びるべきと思います。がん専門医は今こそ国民に謝るべきです。そして、予防に努めようと言わねばなりません。
 実は、がんに対する予防医療の有用性はアメリカではすでに30年ほど前から言われており、何も新しい発見ではありません。
 私は、大学病院に長く勤務していたので、がん予防など何も考えない派の医師の典型でした。しかし、開業し自分の健康管理をしっかりしなくてはならないと改めて気づき、自ら予防医療を取り入れることにしました。それは、同年代の開業医の友人やがん専門医の先生ががんで亡くなったことが続いたことも関係しています。
 医師は、自分たちは病気治療のエキスパートであることに油断してしまうことが関係していると思います。しかし、がんになることは運の問題ではなく、確率の問題でありすべての人が同じリスクを抱えています。そのリスクを少しでも下げるのが予防医療です。今、車の運転に「自分は絶対事故を起こさない自信がある」と言って、シートベルトの必要性を否定する人はいないでしょう。予防医療も同じです。
 私は特にがんだけに重点を置いた予防法はしていません。というのは、病気予防、老化予防をしている健康法は、がん予防法とほぼ一致しているからです。ただ、一番重視しているのは、①簡便性、②持続性、そして③安価であることです。そういう視点で言うと、食事療法、運動療法、サプリメントになります。
 食事療法では炭水化物を摂りすぎないように気をつけ、たんぱく質を多く摂るように心がけています。ラーメン、パスタが大好きだったのですが、これは食べないことにしました。あまり極端な食事療法は食事を複雑にし、持続が困難になります。ただ、食材を選べるのであればできるだけ有機野菜、牧草牛の肉を選ぶようにしています。食事のメニューは和食が長寿食としては日本人にベストだと思います。ですから、牛乳、ヨーグルトはほとんど摂らなくなりました。アルコールも好きですが、糖質の少ないもの、蒸留酒、ワインを選ぶようにしています。
 運動は、不足がちですが筋トレ、マラソンはしないと決めています。定期的な運動は、週2回のテニススクールです。サプリメントは、できるだけ積極的に摂るようにしています。ビタミン(B・C・D)、ミネラル(ヘム鉄、マグネシウム、亜鉛)はもちろん、睡眠の質を上げるのと免疫増強、抗加齢にメラトニン、DHEA、感染症予防にオリーブ葉、腸内細菌のためにプレバイオティック、プロバイオティックをときどき摂っています。

保険医療では手術療法が第一。それ以外では断糖の実施、運動禁止を守りたい

——それでは、早期発見のための検診はどうされていますか。
金谷 以前は、一通りの検診を受けていました。通常の健康診断に加えて胃、大腸カメラ、PET検診まで受けましたが、現在はやっていません。血液検査と、血便検査くらいはやったほうがいいかと思いますが、他は放射線被曝などを考えるとあまり積極的にやる気にはなりません。ゲノム検査も受けましたが、まだ解析法もデータも不十分な気がして満足な結果は得られませんでした。がん危険遺伝子がないことで少し安心しましたが、まだコストパフォーマンスは不十分と思います。
——残念ながらがんになってしまった場合はどうされますか。治療法をお聞かせください。
金谷 まず、保険医療でできる治療法のなかでは、手術療法を第1に考えます。私は麻酔科医なので、とてもたくさんの手術をそばで見てきました。そのため、手術療法についてはとても信頼感があります。まず、重要なのは手術できるものなのかどうかで、可能であれば躊躇なく手術を受けます。ただ、困難な手術の場合は執刀医の技量がとても大切なことも知っていますので、手術成績は十分に吟味します。手術に迷ったら、麻酔科医に聞くといいです。腕のいい外科医を知っていますから。
 手術不可能な場合には、化学療法は特に有効なものを除いて受けません。単に、腫瘍の縮小を期待するだけの化学療法は体力の消耗のほうが大きいからです。放射線治療も基本的には同じで積極的に受ける気はありませんが、局所照射、前立腺がんであれば小線源療法は選択するかもしれません。免疫療法は受けると思います。
 保険診療以外の治療では、前述のサプリメント治療は続けます。特に、ビタミンCを増量しますし、がんの治療法として高濃度ビタミンC点滴療法は必ず行います。上記の手術、化学療法、放射線とビタミンCはとても相性が良いので、治療の前後にできるだけたくさん行います。入院中は点滴ができませんが、外出可能となったらすぐ点滴をします。それ以外には、断糖の実施、運動禁止を守ります。
 他には、免疫活性化を期待してオゾン療法は試します。点滴療法と相性が良いのは水素吸入療法です。水素は、細胞内での悪玉活性酸素を除去してくれるので、吸入すると頭がスッキリして体が軽くなります。

少しでも安楽に療養が続けられるような治療を継続

——今お話しになったことで、仮にがんの発生時期が今より若かった場合と、年を重ねてからの場合で違いがあればお話しください。
金谷 基本的には、年齢による違いはありません。ただ、手術の侵襲は術式によって違いますから、大手術になるのであれば高齢ならば受けません。その場合には、外科医と十分に話し合います。
——考えたくないことですが、万が一がんが進行して、医師より「もう治療法はない」と言われたらどのようになされますか。
金谷 「もう治療法がない」というのは、「(保険診療上は)治療法がない」という場合のみです。治療とは完治を目指すものだけではなく、ヒポクラテスの誓いにあるように「自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない」という言葉に従います。したがって、少しでも安楽に療養が続けられるような治療を継続します。上記の、自由診療の医療はほとんどがその目的にかなっています。
 現在、わが国は在宅医療が推奨されているので、入院しなくては継続的な医療が受けられないということもないので在宅医療を受けます。私のクリニックも在宅医療を行っていますが、入院中にたくさんの鎮痛剤が必要だった末期がんの方も自宅で過ごせば驚くほど快適に過ごすことができ、鎮痛剤の量も劇的に減ることを経験しています。病気の療養に、安心できる環境がとても大切だと実感しています。