2019年12月13日より、米国ネバダ州ラスベガスのベネチアンホテルで3日間にわたり開催された米国アンチエイジング医学会(American Academy for Anti-Aging Medicine: A4M)の「第27回ワールドコングレス」に出席しました(写真1)。
米国アンチエイジング医学会の創設者は、ロバート・ゴールドマン氏(写真2)とドナルド・クラッツ氏です。世界各国で学会やワークショップを開催、昨年の2019年10月26日〜27日に「A4M国際学会日本会議」が東京で開催されたときもゴールドマン会長ら著名なアンチエイジングの専門家が来日し、日本にいながらにして米国の最新アンチエイジング医学を学ぶことができました。
■学会のスローガンは「医学を再定義する!」
さて、今回のラスベガスの学会には世界各国から5000人以上の医師らが出席し、300以上の企業ブースの展示がありました。学会プログラムは教育講演とスポンサー企業主催の講演で、一般の医学会のような口演やポスターセッションはありません。また、すべての分野を網羅するのではなく、ホットなトピックスやこれからのトレンドにフォーカスをあてた講演が中心で、いずれも臨床現場に直結する内容です。
そして注目したのは挑戦的な学会のスローガン「医学を再定義する(Defining Medicine)」です。これまで続いてきた医学の延長線ではなく、まったく違う視点から医学を構築しようという実にアメリカ的なスローガンです。
しかし、学会スローガンが言葉だけの日本とはまったく違うことが、実際に学会の講演を聴き、各社の展示を見て思い知らされることになるのでした。
■注目される幹細胞とエクソゾーム
私の学会出席の目的は、これからの米国アンチエイジング医学会の動向を知ることです。私は初めに学会前日に行われた「再生医療」の1日プレワークショップに出席しました。このセッションには点滴療法研究会の海外ボードメンバーで、再生医療のフロントランナーであるニール・リオルダン博士(写真3)も講演をされていました。
リオルダン博士は多発性硬化症と自閉症に対する臍帯血幹細胞治療の素晴らしい臨床試験結果を発表していました。今後は2型糖尿病などにも臨床試験を予定しているそうです。リオルダン博士はリオルダン・テクノロジー社を設立し、そのグループの傘下にパナマの幹細胞治療クリニック、ダラスとカリフォルニアに幹細胞療法研究所、そしてアイダンプロダクツ社ではリオルダン博士の開発したサプリメントを販売しています。今回、リオルダン博士と私の共同開発したサプリメントをアイダンプロダクツ・ジャパン社より2020年中に日本で発売するための打ち合わせもありました。
今回の学会を通じて、幹細胞や幹細胞から分泌されるエクソゾームの進展に驚きました。特にエクソゾームは様々な疾患に幹細胞療法と同等の治療効果を期待できるということで、研究者や企業が激しく競争をしています。実際にエクソゾームを大量に含有した培養液を医師向けに販売している会社もあります。そしてエクソゾームは、疾患別に特異的に効果のある次世代エクソゾームの商品化も近いという印象でした。日本ではiPS細胞がもてはやされながら結果を出せないでいます。一方で米国ではすでにiPS細胞を見放し、幹細胞やエクソゾームなどの再生医療分野で10年以上も先を進んでいます。
■CBDオイル
医療用大麻の成分であるCBDオイルの発表も多数ありました。2018年は、CBDオイルと日本では禁止されているTHC成分との併用効果が多かったのですが、2019年はCBD成分が中心でした。米国におけるCBDオイルの使用目的は「痛み」「不安」「不眠」が最も多く、「関節炎」「ストレス」「偏頭痛」がそれに続きます。
特に不眠については入眠までの時間が平均60分から20分に短縮、夜間覚醒が4・3回から1・4回と少なくなります。がん治療においては化学療法の副作用である吐き気や嘔吐の軽減、食欲不振や末梢神経症状の改善効果があります。2018年までは、CBDオイルは100〜300㎎の大量投与でなければという風潮がありましたが、25〜50㎎でも十分に効果を期待できるとの発表がありました。
その他、数あるなかで下記のトピックスが興味を引きました。
⑴認知症・アルツハイマー病の治療
⑵ペプチド療法
⑶NAD+療法
⑷ファスティング
⑸ブレインヘルス
⑹男性EDの治療
⑺がんの予防
なお、展示会場では学会公認のスタンプラリーが行われ、最終日に抽選があります。特賞はなんと日本車のレクサスでした(写真4)。
■日本からの参加者との交流
恒例となった日本人出席者による懇親会は、ベラージオホテル内にあるステーキハウス「CUT」で行われました(写真5)。20人ほどのいつものメンバーと新しいメンバーで夜遅くまで楽しく過ごしました。
■おわりに
2019年の米国アンチエイジング医学会に出席し、新しい情報に心が躍りました。一方、この医学の進歩の日米の格差に愕然とします。最近では、日本以外のアジア諸国も日本の先を走り始めています。ここで得られた情報をいかに日本の医師らに伝えていくかが、私たちの大事な役割であると考えました。
参考ウエブサイト
米国アンチエイジング医学会 https://www.a4m.com

写真1 米国アンチエイジング医学会の会場となったラスベガスのベネチアンホテル

写真2 A4M創設者のロバート・ゴールドマン会長と再会

写真3 ニール・リオルダン博士と著者

写真4 スタンプラリーの商品として展示会場に飾られたレクサス

写真5 日本人出席者による懇親会
柳澤厚生 (やなぎさわ あつお)
杏林大学医学部卒、同大学大学院修了。 医学博士。米国ジェファーソン医科大学リサーチフェロー、杏林大学医学部内科助教授、 杏林大学保健学部救急救命学科教授を経て、2008年より国際統合医療教育センター所長。2015年〜2017年に事業構想大学院大学研究所客員教授。
また、神奈川県鎌倉市にスピッククリニックを開設、現スピッククリニック名誉院長。点滴療法研究会会長。高濃度ビタミンC点滴療法をはじめとするさまざまな点滴療法を日本に導入。米国先端治療会議認定キレーション療法専門医(CCT)、アメリカ心臓病学会特別正会員 (FACC)、米国オゾン療法学会会員。2009年第10回国際統合医学会会頭。2012年より国際オーソモレキュラー医学会会長(カナダ)。2011年国際オーソモレキュラー医学会殿堂入り(カナダ)、2014年アントワーヌ・ベシャン賞(フランス)、パールメーカー賞(アメリカ)、世界神経療法会議最優秀アカデミー会員(エクアドル)を授与される。2018 年に東京で開催された国際オーソモレキュラー医学会第 47 回世界大会会長。著書 に『ビタミンCがガン細胞を殺す』(角川 SSC)、『超高濃度ビタミンC点滴療法ハンドブック』(角川 SSC)、『グルタチオン点滴でパーキンソン病を治す』(GB)、『つらくないがん治療:高濃度ビタミンC点滴療法』(GB)、『点滴でアンチエイジング』(主婦の友)などがある。