連載 第135回 帯津良一の「養生塾」

人間が自らつくり出す
自然治癒力に目を向けていく

 
帯津良一  帯津三敬病院名誉院長 帯津三敬塾クリニック顧問

自然治癒力は「免疫力の司令塔」

 病院において、胸のレントゲンを撮影したときに「影が見えるけれど、今は治っているから心配しなくても大丈夫です」と言われたり、胃を検査したときに「潰瘍が治った跡があります」と言われたりするケースがしばしばあります。これは、本人に自覚症状がないうちに、肺や胃の患部が勝手に元通りに修復されていたのです。かすり傷を負ったとき、軽度であればそのまま放置していても、いつの間にか血が止まって瘡蓋ができ、それが取れて治ってしまいます。そして、年月を経れば、どこに傷があったのかわからないほどきれいになってしまいます。
 私たちは、人間が自らつくり出すこのような力、すなわち自然治癒力に目を向けていきたいものです。しかし、医学的に自然治癒力の正体が究明されているわけではありません。それでも、生き物にはその力が備わっていることを私たちは実証(体験に基づく事実など)によってわかっています。
 私は、生命体の持つ自然治癒力は、免疫力よりも奥にあり、免疫力の司令塔になっているのではないかと考えています。多田富雄先生(免疫学者・東京大学名誉教授)は「免疫は自己組織化するスーパーシステムであり、自然治癒力は『場の力』である」と言っておられます。つまり、自然治癒力は体内の生命場に備わっている本能的な力で、生命のエネルギーが低下したときに、それを回復させる能力だということです。
 そもそも、私たちの体は「臓器の集合体」ではなく「場の中の存在」です。人間の体の中にはあちこちに隙間があり、その空間に存在する「生命に直結する〝何か〟」が生命場として機能していると私は思っています。だとすれば、人間の体は、「自然のままにしておけば生命維持のために秩序性の高いほうに進む」という性質を持っているのです。たとえば、精神的ストレスによって生命場が乱れたとしても、そのストレスを解消すれば、倒してもすぐにまた起き上がる「起き上がり小法師」のように元に戻す性質が人間にはあるのです。この「高い秩序性」が自然治癒力であり、人間の生命を維持しようとしたり、歪んだ状態を修正しようとしたりする力なのです。

笑いや歓びの感情が自然治癒力を高める

 自然治癒力は、人間や動物などに生まれながらにして備わっているケガや病気を治す力・機能です。つまり、手術を施したり薬剤を投与したりしなくても治る「誰もが持っている『生命の力』」です。この力が十分に発揮できるような生活習慣を維持し健康的に過ごしたいものです。
 齢を重ねると怒りっぽくなる人は少なくありません。日常生活において、いつもイライラして文句ばかりを口にしている人は自然体で生きている人と比べると免疫力が低下し、がんに罹患しやすい・潰瘍ができやすいという研究結果があります。
 「一怒一老」という四字熟語があります。反対に、「一笑一若」という四字熟語があります。「一怒一老」は1回怒ると1つ歳を取るという意味ですから、イライラしないことが若さの秘訣でもあるのです。極力、ストレスを溜めず、いつも大らかな心でいたいものです。
 また、イライラしやすい性格の人は、大らかな性格の人と比べ、50歳前に死亡する確率が5倍も高いという調査結果があります。加えて、長い間、怒りや恨みの感情を持ち続けると免疫力が低下し、病気に罹りやすくなったり、潰瘍やがんを発生させる原因をつくったりするという研究結果が出てもいます。
 一方、「がんが消える」という現代医学では奇跡と思えることを起こさせるのが自然治癒力です。体に起こった異常を正常な形に戻そうとする「秩序を整える力」が自然治癒力であることは先述の通りです。
 怒りや恨みの感情に包まれていることが自然治癒力を低下させる原因となるのとは反対に、笑いや歓びの感情が自然治癒力を高めるという報告もあります。この自然治癒力がまったく働かなくなってしまうのがエイズ(AIDS:acquired immuno-deficiency syndrome=後天性免疫不全症候群)です。その病因は、HIVウイルスの感染による免疫の働きの低下です。
 人間には、元々、免疫が備わっています。しかし、エイズは、その免疫の力が正常に働けば跳ね返すことができる外部からの菌に対し、対抗する力をまったく失ってしまった状態です。
 現在、エイズの治療は、HIVウイルスの量をコントロールし、エイズを発症させないようにすることです。そのためには、複数の抗HIV薬を使用した多剤併用療法が行われます。と同時に、エイズの治療として、アメリカでは自然治癒力を高めることが重視され、食餌療法をはじめ、八段錦などの気功が取り入れられてもいます。
 なぜにHIVウイルスがヒトに猛威をふるい出したのかは不明な点が多々あります。それでも、人類全体のライフスタイルの変化による自然治癒力の低下が関係しているのは否めません。

薬剤は人体にとって両刃の剣

 抗がん剤は、がん治療に画期的な効果をもたらしました。ただ、その使い方には問題がないとは言い切れません。もちろん、私は抗がん剤治療を否定してはいないのですが、抗がん剤を用いるのであれば目的意識を持って使うべきだと考えています。たとえば、他の方法でがん治療を行ってきて、あまり好転しないので、一度、抗がん剤を使ってみようというのであれば話はわかります。しかし、それまで何種類もの抗がん剤を使っていて、他に何もする治療がないので、別の抗がん剤を使うという姿勢は、その患者さんに残された自然治癒力を徹底的に叩いてしまうことと通底しています。それでも、何も治療しないよりはいいだろうと、仕方なく抗がん剤を用いられることが少なくないのです。
 そのことは、副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)についても言えます。副腎皮質ホルモンは、たとえばリウマチの痛みに劇的に作用し、服用した瞬間に痛みが一時的に消えてしまいます。ですから、リウマチの患者さんは副腎皮質ホルモンに頼りたがります。また、医者も患者さんが喜ぶので、すぐに処方箋を出しがちです。しかし、副腎皮質ホルモンは、長く服用していると副作用が現れます。たとえば、胃がんの手術をする際に、自力で副腎皮質ホルモンを分泌できなくなっているため、麻酔をかけるとショックを起こすこともあります。
 副腎皮質ホルモンも抗がん剤同様、服用し過ぎると自然治癒力を破壊してしまいます。薬剤は人体にとって両刃の剣となり得るのです。
 確かに、激しい疼痛に見舞われているときには、こうした薬でそれを和らげることは大切です。そして、一旦、痛みが和らいできたら投薬を中止し、自身の自然治癒力を高めて治していくという積極的な姿勢が必要だと思います。
 その自然治癒力を高めるには、「大地の気」をいただく食事がいちばんです。栄養補給という意味だけでなく、よく噛むことで唾液の分泌が促されて発がん物質の解毒をしたり、脳を刺激して活動を活発にしたりします。加えて、「おいしい!」という歓びを感じることで心身がリフレッシュされ、自然治癒力が高まっていくのです。

        (構成 関 朝之)

 

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