連載 第141回 帯津良一の「養生塾」

生涯にわたって
ときめいているため

 
帯津良一  帯津三敬病院名誉院長 帯津三敬塾クリニック顧問

孤独は自分を磨くために大切

 〈人は虚空(宇宙を抱えている大いなる空間)からの旅人であり、生まれるときもひとり、死んでいくときもひとりです。いくら明るく振る舞ったところで、淋しさや哀しさから逃れることはできません。したがって、明るく前向きなものほど脆く、人は本来、哀しい生きものなのです。〉
 そのようなことを、私は幾度か本連載で述べてきました。
 人の本性が「孤独な旅人の哀しみ」であるならば、いっそのこと、淋しさや哀しさを避けるのではなく受け容れ、孤独を楽しめばいいと私は考えます。それは何も難しいことではありません。
 たとえば、私の場合、講演などで地方に出かけることが少なくありませんが、その帰途で駅や飛行場のレストランで、ひとりでお酒を飲むのが好きです。旅情に浸りながら孤独を楽しむのです。私は、旅情の基調は哀しみだと思っているので、それをしみじみと味わいながら自分と向き合っているのです。
 旅情に限らず、己と対峙する孤独な時間は、人間として向上するための時間でもあります。つまり、孤独は自分を磨くためには大切なのです。
 ただ、孤独に耐え切れないときは、自分と向き合うのは一旦止め、友人を誘って一緒に楽しく過ごせば癒されます。その際、誰かが誘ってくれるのを待つのではなく、自分からアクションを起こしてみることです。そのように決めておけば、孤独の闇に呑み込まれることはないはずです。

早くからの定年後の準備は「攻めの養生」に通じる

 一般に、お勤めの人が定年を迎えて退職すれば、自分と向き合う時間を確保しやすくなります。また、定年退職後も胸をときめかせ続けるには、その10年くらい前から準備をしておくのが良策です。
 胸のときめきには健康であることが重要ですが、健康オタクになる必要はありません。「攻めの養生」を心がけていればいいのです。私の言う「攻めの養生」とは、胸のときめきです。ときめくことへの挑戦こそが、若返りや健康のいちばんの秘訣だと思うのです。
 しかし、定年後のことを定年になってから考えていては遅いように思えます。定年後の自分をぼんやりと思い描いている人は少なくないようですが、それでは準備不足は否めません。
 性格が真面目な人ほど自分のことは二の次にして、会社や家族のことばかり考え、定年退職後もときめくことができないようです。それでは充実した日々が送れないばかりか、病気がちになってしまうでしょう。それに対し、不真面目な側面を持つ人は、生涯にわたってときめいているために、早くから定年後の準備をしている場合が少なくありません。
 別に50歳から定年後のときめきのために貯金ばかりする必要はありません。それよりも、趣味の領域での人間関係を築くほうに重きを置くほうがいいでしょう。60歳を迎えたとき、趣味に広がりと深みが出てきます。
 また、50歳から定年後の準備を始めることのメリットとして、60歳までの10年がときめきに繋がることが挙げられます。まさに「ローマは一日にして成らず」。早くから定年後の準備をしておくことは「攻めの養生」にも通底しているのです。

食事の目的は栄養補給だけではない

 定年退職後も胸をときめかせ続けるには、健康が大切だと前述しました。その健康のためには、食事の内容に留意することが大きなポイントになるのは言うまでもありません。ただ、昨今の日本人は、健康のためには何を摂取すればいいのか、何を口にしてはいけないのか、といったことに神経質になり過ぎている感があります。脂っこい食べ物や肉、塩分、糖分などが病気の素のように捉えている人は少なくありません。それではせっかくのおいしい食事も台無しですし、食べられるものが制限されてしまいます。たしかに肉や塩分、糖分の摂り過ぎは体によくありません。しかし、適度に摂取する分には栄養になります。脂っこい食べ物もそのおいしさにときめくのであれば、たまには食べてみてもいいでしょう。

 食事の目的は栄養補給だけではありません。体内の自然治癒力を高める効果もあります。とりわけ、”ときめきの食事”は自然治癒力を爆発的に高めてくれます。疲れが溜まったときに精のつくものを食べると元気になるのは、この自然治癒力が高まるからです。それだけ食べもののエネルギーが高いのです。品質が良いものを適度に摂れば、その度合いはさらに高まるはずです。

 肉や魚を一切、口にせず、菜食主義を貫いている人がいます。ある意味で、それは自然治癒力の向上を放棄するようなものだと言えます。
 野菜をたくさん摂るとがん予防になると言われています。それでも、私は、里芋やじゃが芋の煮っ転がしや漬物を食べるものの、生野菜を食べる習慣はありません。
 「長い間、偏食を続けていると病気になる」と思っている人は多いと思います。しかし、これには確固たる根拠があるわけではありません。自然治癒力に重きを置けば、「食事を楽しむ」「おいしく食べる」……といったときめきを優先させるのが良策です。食べものの栄養面を考え、健康を維持するのは大切なことです。けれども、食事にときめいて、自然治癒力を高めることは、それと同じくらい、いやそれ以上に大切なことだと思います。

適量の高品質の肉を楽しみながら食べることは若さの保持に役立つ

 前記したように、健康に高い関心がある人のなかには「肉は体に悪い」と考えている人が結構います。「大腸がんの原因になる」「コレステロールが高くなる」というのがその理由なのでしょう。ところが、高齢でありながら元気に活躍している人には肉好きが多いような気がします。私も行き付けのお蕎麦屋さんで食べるカツ丼が大好きで、胸をときめかせてくれる食べ物の代表格です。
 肉を食べることが問題視されているのは、食べ過ぎることによって病因となり得る動物性脂肪を摂り過ぎてしまうからです。肉自体に〝罪〟はないのです。
 適度な量の肉を食べれば、3大栄養素の2つを占めるタンパク質と脂質を摂取できます。タンパク質は20種類のアミノ酸で構成されています。それらのアミノ酸のうち、その動物の体内で十分な量を合成できずに栄養素として摂取しなければならないものを「必須アミノ酸」(ヒトでは、一般にトリプトファン・リシン・メチオニン・フェニルアラニン・トレオニン・バリン・ロイシン・イソロイシンの8種、もしくはヒスチジンを加えた9種)と称しています。肉を食べると、それらの必須アミノ酸を補えます。すると、血管が丈夫になり、脳卒中や動脈硬化、心筋梗塞、高血圧症などのリスクが軽減されます。
 老化に伴い、体内からタンパク質と脂質は減ってきます。だから、50歳を過ぎたあたりから、適度に肉を摂る必要が出てきます。体内のタンパク質量が減れば筋肉や骨の量が減少し、将来、寝た切りになる確率が高まります。また、体内の脂質が減れば細胞膜が弱り、病気になりやすくなります。
 肉の摂取を控えると、老化が早まります。適量の品質のいい肉を楽しみながら食べることは、若さの保持に役立つのです。
(構成 関 朝之)

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