連載 第138回 帯津良一の「養生塾」

「食べものの季節・旬」に
添った食生活を心がける

 
帯津良一  帯津三敬病院名誉院長 帯津三敬塾クリニック顧問

昔は家の中で大自然と接していた

 「食」は大地の「気」をいただくことと同義です。大地は、野菜や果物、木の実などの農作物として気を私たちに提供してくれています。農作物を食べることによって、私たちの体内に存在する「生命場のエネルギー」である気が高まります。それが私の食の捉え方です。
 もっとも気を包含しているのは、旬の食べ物や、自分が生活している地場の食べ物です。このような原則は古くから食養生に活かされています。「身土不二」といって、「身と土、二つにあらず」という意味です。つまり「人間の体と人間が暮らす土地は一体で、切っても切れない関係にある。したがって、その土地でその季節に採れたものを食べるのが健康によい」という考え方です。
 その季節に旬のものを食べることは、それに含まれる栄養素という観点でも大きな意味を持ちます。なぜならば、旬とは、その食べ物に包含される気やパワーがいちばん充実している時期だからです。ところが、昨今、食べ物に旬がなくなってきました。スーパーなどには、1年中、同じような野菜や魚が並んでいます。冬でも、きゅうりやトマトなどの夏野菜を口にできる時代です。昔に味わったような、旬の野菜ならではの香りや味わいが薄れてきているのは寂しい限りです。
 私が子どもの頃は、冷蔵庫も冷房・暖房をするエアコンもありませんでした。しかも、家の中と屋外を仕切っていたのは、隙間だらけの雨戸と、ところどころに穴が開いた障子窓だけ。それでも、雨戸の隙間や障子の穴から木漏れ日のように射し込んでくる光で朝を感じたものでした。つまり、家の中に居ながらにして、大自然と接していたのです。
 また、当時、暑い夏の日には、薄暗いお勝手の土間に大きなバケツが置いてあり、その中に張ってある冷たい井戸水に、地元で採れた野菜や果物が浮いていました。冷蔵庫の中ほど冷えているはずがないのに、冷たくておいしいトマトや西瓜に対し、子ども心に大自然の恵みへの感謝の念を持ったものです。きっと、そのようなときに、私の生命場は外界の「自然の場」と融合し、大地の気と交流していたのでしょう。

旬と地場の食材にこだわることが望ましい

 春は、寒い冬の間、土の中でじっと我慢していた植物たちが芽吹く季節です。ぜんまい・ふきのとう・せり・うど・たけのこ・わらびなどは灰汁が強く、火を通さないと食べられないものが多いのですが、春キャベツや新玉ねぎなどは、この季節ならではの食材です。
 夏はたくさんの汗をかく季節ですから、トマトや西瓜などの水分を多く含んだ野菜や果物を食べ、体を涼しくしようとします。トマトや西瓜、きゅうり、柿、バナナなどは、中国医学では「涼性食物」とされ、熱を放出する作用があるのです。
 秋は、夏の暑さで疲れた体から疲労を取り去って元気を与えるかのように、栄養価の高い農作物が採れるようになっています。たとえば、十五夜の名月は別称を「芋名月」と言うようにいもを供えます。そのいもは里いものことです。その他にも、米や麦、栗、さつまいも、かぼちゃ、ブロッコリー、カリフラワー、きのこ類など、栄養豊富であり、おいしい食べ物が登場し、食欲の秋を彩ってくれます。
 冬は、ねぎやかぼちゃ、にんじん、れんこんなど、温性野菜が多く出回ります。白菜や春菊、ほうれん草、小松菜などは鍋料理に欠かせない野菜で、体を温めてくれる食材です。
 こうした四季折々の旬の食材を口にすることは、健康を保つために大いに役立ちます。このことを実践していた昔の人々は、栄養学的な机上の知識があったわけではないはずです。それでも、生きるうえでの知識として、その季節に収穫される食材を口にする「自然の摂理に従った生き方」が養生に結び付くことを心得ていたのでしょう。
 また、暑い土地では涼性の農作物が多く採れ、寒い土地では温性のそれが多く採取されます。「FOODは風土」という言葉もあるように、その土地の風土と食べ物は密接な関係にあるのです。したがって、暮らしている土地、あるいは生活している場所に近い土地で採れた食材を口にするのが体によいというわけです。
 食品の流通・加工技術が発達した現在では、旬のものだけ、その土地のものだけを食べることが難しくなっています。それでも、可能な限り、旬と地場の食材にこだわることが望ましい食生活だと言えます。

大地のポテンシャルを多分に包含しているのが優れた食べ物

 場という角度で農業を捉えると、農業は地球の場を高める1つの方法だと思います。農業と言えば、「大地からの農作物の収奪」という考えがあります。しかし、私は農業とは荒地を耕し、植物の種子を植え、地球を緑化していく作業だと捉えています。緑が増えることで地球の場の気が高まります。そのうえでの農作物の収穫なのです。
 大地の場を整え、そのポテンシャル(潜在能力)を高めることこそ、農業の大切な役割です。こうしてポテンシャルが高まった大地から農作物が生み出され、それを私たちが食べているのです。
 その意味において、農作物はポテンシャルが高く、食べた人の生命場の気を引き上げます。こうした循環が農業と食の関係のように思えます。
 それなのに私たちは、快適で便利な生活を追い求め続け、さまざまな形で地球の環境を破壊してきました。大自然の場は地球の場と同義です。地球の場のポテンシャルの低下は私たち1人ひとりの生命場のポテンシャルの低下です。地球環境を壊しながら手に入れた生活は、たしかに快適で便利かもしれません。しかし、実のところ、自分の生命場も崩壊させてしまっているのです。
 大地のポテンシャルをそのまま農作物に取り入れるという意味では、当然、農薬や化成肥料の散布がよいはずがありません。純粋な緑の大地に存在しないものを付け加え、土地を汚すことにもなるわけですから、それだけでもポテンシャルが落ちてしまいます。
 ポテンシャルの高さという点では、大地の場の気やエネルギーを直に受け取っている分、植物性のほうが動物性よりも高いと言えます。動物性の食材は植物性の食材を食べて成長したわけですが、大地の場の純粋性が薄れてしまいます。かといって、厳格な菜食主義に走る人もいますが、食事が一方に偏り過ぎると、体のバランスが崩れ、自然治癒力の低下を招くことにもなりかねません。「野菜中心の食事にする」という程度が良策だと思います。
 農薬や化成肥料は、農家の労働時間を短縮し、以前より農作業を楽にしています。食品添加物は、食品を長持ちさせる働きや、色・香り食感を加えたりしています。食べ物というのは、さまざまな要素が絡み合って、一概にそれがいちばんよいと言い切れません。ただ、「あるべき姿そのまま」という食材がいちばん高いポテンシャルを擁しています。大地のポテンシャルを多分に包含していて、それを口にすることで自身の生命場のポテンシャルを高められる食べ物が食養生としては優れているのだと言えるのです。

      (構成 関 朝之)

 

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