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神奈川県立がんセンター臨床研究所講演会【後篇】

2015年4月15日(水)、神奈川県旭区民文化センター「サンハート」において、「神奈川県立がんセンター臨床研究所 第28回県民のための公開講座」が催された。今回のテーマは「がんの個性に挑む ~テーラーメイド治療と漢方療法・ワクチン療法~」で、4つの講演と質疑応答が行われた。その模様の後半を前号に続いてレポートする。

がんをコントロールする免疫を活性化させるがん免疫療法

神奈川がんセンター㈫今井先生.JPG神奈川県立がんセンター臨床研究所所長・今井浩三氏。講演会では閉会の挨拶を述べたこの日の3つ目の講演は、笹田哲朗氏(神奈川県立がんセンター臨床研究所・がん免疫療法研究開発学部部長)による「第4のがん治療法 がんワクチン治療の最前線」であった。
笹田氏は、「がん免疫とは?」「がんの免疫療法には、どのような方法があるのか?」「がんの免疫療法の効果は?」の3つのテーマを柱にした講演を繰り広げた。
3人に1人ががんに罹患する時代に突入して久しいが、治る患者さんも多々いる。また、多くのがん種では5年生存率が5割以上を維持している。しかし、食道・肝臓・胆道・膵臓・肺……などの難治性のがん種も少なくない。そのような難治性のがんを抱えた患者さんに対し、外科療法(手術)、化学療法(抗がん剤・分子標的薬)、放射線療法に次ぐ第4の治療法としてがん免疫療法(がんワクチン療法)が注目されてきている。
「外科療法や化学療法、放射線療法は、基本的に外側から外的な力を借りてがんを駆除します。これらの治療法は効果があるのですが、副作用も大きいとされています。それに対し、免疫療法は体内の免疫細胞を元気にすることで元々、人間に備わっている治癒力を利用した治療法です。したがって、副作用が少ないと言われています。
神奈川がんセンター㈰笹田先生.JPG「がんワクチン治療の最前線」をテーマに講演した笹田哲朗氏免疫とは、自己と非自己(病原体・がん細胞)を見分けて非自己を排除する生体の仕組みです。免疫が働かなくなると感染症を起こしやすくなります。また、本日のテーマであるがんも発症しやすくなります。がんをコントロールするために免疫を活性化させるのががん免疫療法です。
免疫には2つのタイプがあります。液性免疫と細胞性免疫です。液性免疫は免疫細胞から抗体ができ、それが遠方にいるがん細胞にアタックします。そのような仕組みを利用した抗体薬は、今、一般的に使われています。もう一方の細胞性免疫ですが、キラーT細胞というリンパ球ががん細胞を直接、殺すものです。その際、がん細胞とキラーT細胞が直に接しないといけないのですが、キラーT細胞を活性化するのががんワクチンです。
若い人・普通の人でもがんは絶えず体内でできていると言われていますが、免疫が元気なうちはがん免疫監視によってコントロールされています。ただ、がんの性質が悪くなってくると免疫ではコントロールできなくなってがんになってしまいます。このようなことがわかってきました。そこで、免疫細胞を強くすることによってがんをやっつけようというのががん免疫療法です」
話題は「がんの免疫療法には、どのような方法があるのか?」に移行し、その歴史が紹介された。その後、笹田氏はがんワクチンについて述べた。
「がんワクチンとは、がん細胞そのものやがん細胞に由来する物質(タンパク質・ペプチドなど)を体内に投与し、がん細胞に対する免疫反応を増強させることでがんを治療するものです。がんをやっつけるのはリンパ球です。そのリンパ球を〝教育〟するのが樹状細胞です。この免疫細胞が、がんの目印をリンパ球に教え込むのです。リンパ球や樹状細胞を活性化するためのワクチンは3つあります。1つ目はがん細胞ワクチン、2つ目は樹状細胞ワクチン、3つ目はペプチド・タンパク質・ウイルス・DNAなどのがんの目印そのものを患者さんに打つことによって樹状細胞に情報を与えてリンパ球を元気にしようとするものです」
講演の後半では「がんの免疫療法の効果は?」というテーマで話が繰り広げられた。そのなかで、最近、とくに注目されている「免疫チェックポイント阻害剤」と「テーラーメイドがんペプチドワクチン」についてレクチャーされた。
神奈川がんセンター㈬.JPG会場となった神奈川県旭区民文化センター「サンハート」には多くの聴講者が足を運んだ「免疫細胞は、一般的に体内に黴菌が入ってきたり、がん細胞ができたりすると活性化されます。ただ、元気になり過ぎるといろいろな悪い影響が出てくるので、あまり元気になり過ぎないよう、活性化にブレーキがかかるようになっています。こういうブレーキを解除すれば、免疫細胞が元気になりがんをやっつけられるのではないかということで、ブレーキをはずすための免疫チェックポイント阻害剤が開発されています。
テーラーメイドがんペプチドワクチンは、日本で開発中のがんペプチドワクチンです。これは、がんの目印であるペプチドを患者さんに投与することによって免疫細胞を元気にして治療するものです。一般には異なる患者さんにも同じペプチドを使うことがほとんどですが、患者さんの体質にもそのがんにも個性があるので、患者さんごとにワクチンを変えようというのがこの治療です」
笹田氏は最後に「がん診療における発展」について語り、講演を結んだ。

がんワクチンの有効な使用に向けた臨床試験が実施されている

神奈川がんセンター㈪和田先生.JPG「がんワクチンセンターにおけるがん治療の展開」を概説した和田聡氏この日の最後の講演は、和田聡氏(神奈川県立がんセンター臨床研究所・がん免疫療法研究開発学部副部長)による「がんワクチンセンターにおけるがん治療の展開」であった。この講演では、主に、2014年9月に神奈川がんセンター内に開設された「がんワクチンセンター」で行われている臨床試験に関する話題が中心となった。
現在、がんワクチンは、日本において保険薬として認められていない。そのため、がんワクチンの安全性と効果の検証が必要となっており、臨床試験・治験で評価を行う必要があるという。
和田氏は、がんワクチンセンターなどで行っている、あるいは行う予定の臨床試験・治験を紹介した。それは、次の5つであった。①標準治療不応膵臓がん。②切除不能膵臓がん。③標準治療不応食道がん。④再燃前立腺がん。⑤標準治療不応食道がん・大腸がん。
「私たちは、有効な治療法のない進行膵臓がんに対してペプチドワクチンを用いた治療をしています。そのペプチドワクチンを『サバイビン2Bペプチド』と呼んでいます。サバイビンはがん細胞だけに発現しているもので、このワクチンによって副作用の少ない治療ができると考えています。それをインターフェロンと併用することで、強いがんワクチン療法ができるのではないかと考えられ、医師主導治験が行われているのです。また、サバイビンを用いることで、がん幹細胞を叩く期待も持たれています」
その後、切除不能進行再発膵がんに対する「抗がん剤+VEGFR2ペプチド」による臨床試験の結果、標準治療不応食道がんに対する「HSP(ヒートショックプロテイン)105由来ペプチドワクチン」による臨床試験の結果などが紹介された。
講演の終了後、質疑応答の時間が設けられた。
プログラムの最後には今井浩三氏(神奈川県立がんセンター臨床研究所所長)が登壇して閉会の挨拶を述べ、この日の講演会は閉幕した。

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