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東洋医学の根本的な考え方である〝未病〟を中心に据えて「未病を治す」や「医食農同源」を政策として推進することとしました

――本当に驚きですね。お父様のそのときの状態の場合では、西洋医学より漢方のほうが効果的だったわけですね。しかし、末期がんの患者さんが長芋を蒸したものを食べたら、全員が必ず良くなるということならよいのですが、なかなかそうはいかないでしょう。
 大切なことは、がん患者さんに限らず「未病を治す」と「医食同源」という考え方ではないでしょうか。

黒岩 私は、余命2カ月から完全復帰した父を身近で見てきましたから、「西洋医学とはまったく違ったアプローチである、『未病を治す』『漢方の知恵』というのはすごいものだ」と、強く思いました。しかし、父の症例はたった1つの症例にすぎず、長芋のほかにも漢方薬やサプリメントを飲んでいましたので、エビデンス(科学的根拠)がないのです。エビデンスのないものは、今の西洋医学中心の医学では認められません。
 また、先程から「氣を高める」などと、氣について話してきましたが、氣を医学的に証明することは困難と言われています。
 そこで、どうにかして私が身近で見てきた父のことを多くの人にお伝えしたいと思っていたのですが、神奈川県知事に就任しましたので、神奈川県から未病のコンセプトを普及させ、政策として発信させていくこととしました。
 最初は「東西医療の融合」とか、貴誌も使われている「統合医療」などと言っていたのですが、西洋医学の権威と呼ばれる方の中には、抵抗感を示される人もいました。そこで、東洋医学の根本的な考え方である〝未病〟を中心に据えて、「未病を治す」と「医食農同源」などを政策として推進することとしました。

超高齢化社会が到来した際に、病気を治していただけでは間に合わなくなってしまいます

――知事は、未病を「ME-BYO」として県として商標登録し、未病を治す神奈川宣言を発せられ、生活習慣の見直しを訴えられたり、医食農同源を提唱されたり、有識者によるシンポジウムを開催されたり、積極的にこの政策を推進されていらっしゃいますが、この意義をお話しください。

黒岩 神奈川県の人口ピラミッドは、2050年には典型的な逆ピラミッドとなり、超高齢化社会がやってきます。それを乗り越えるキーワードが「未病」です。

インタビュー後の写真撮影に応じる黒岩知事と吉田繁光本誌発行人.psdインタビュー後の写真撮影に応じる黒岩知事と吉田繁光本誌発行人私はハーバード大学で講演した際に未病についてお話しました。健康と病気は白と赤にはっきり分かれているのではなく、グラデーションで連続的につながっている、この連続性の変化を未病という。病気になってから治すのではなく、未病を改善する(※)ことが大事と話したところ、学生たちに伝わったとの実感を持ちました。それからは、漢方や東洋医学とは言わず、すべて「ME‒BYO」コンセプト(概念)に統一しました。
 この神奈川県発の「ME‒BYO」コンセプトは、新しい産業にもつながります。中国の伝統的な考えを科学的に進めるには、さまざまなセンサーなどの機器が必要です。これをヘルスケア・ニューフロンティア政策として、神奈川県の特区などを活用して進めています。
 国際化も進めていて、シンガポールをはじめとして、各国の政府機関や大学などと覚書を交わしています。
 また、未病サミットを平成27年に箱根で開催しましたが、WHO(世界保健機関)やFDA(アメリカ食品医薬品局)、NIH(アメリカ国立衛生研究所)など多方面よりのご参加もいただき、議論の成果は「未病サミット神奈川宣言」 として採択し世界に発信しました。
 このような活動の結果、この取り組みが『nature(ネイチャー)』という世界的な科学雑誌にも特集として取り上げられました。

 ※神奈川県では、平成27年10月に採択された「未病サミット神奈川宣言」の実現に向け、すべての世代の方々に、「未病」を自分のこととして考え、行動していただけるよう取り組みを拡げていくこととしており、「未病を治す」を含む、より広い概念として、「未病を改善する」という表現で発信しています。

がんとは付き合っていける時代になったということでしょう

――ネイチャーにも掲載されたとは、大きな手ごたえを感じられたことと思います。今後に大きな期待を抱いています。

黒岩 がんとは、ジャーナリスト時代から向き合ってきましたが、当初は患者さんに告知することはなく、なかなか語ることさえ難しい状況でした。しかし、そのような流れから随分と状況は変わってきました。
 昔は、がんといえばイコール死、のような感じでしたが、今はまったく違っていて、脳疾患や心疾患のようにいきなり亡くなってしまうことの多い病気より、向き合いやすい病気となっています。治療にも、さまざまなアプローチ、選択肢があり、生き方全体を考え直すチャンスにもなります。つまり、がんとは付き合っていける時代になったということでしょう。
 それには、正しい情報が不可欠だといえます。私も、父が遺してくれた貴重な経験を礎に、神奈川県から「未病を改善する」をさらに発信していくとともに、より一層の普及浸透を図っていきます。

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