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東京医科大学泌尿器科学教室 主任教授

橘 政昭

――がんは早期発見が大事だと言われますが、かからないことにこしたことはありません。橘先生はがん予防に何かされていますか。

 がんの発がん因子としては多くの要因が挙げられており、喫煙、高脂肪食、各種発がん物質など枚挙にいとまがありません。しかしながら、われわれが日常生活でこれらすべての発がん因子から逃れて生活することは現実的に言って不可能です。そのような観点から私自信は強いてがん予防のための方策は一切行っていません。

――それでは、早期発見のための検診はどうされていますか。

 がんはその発生頻度の差はあっても全身の臓器から発生するものであり、どのがんを標的とした早期発見の検診を行うべきかが論点となるかと思います。日本人男性では肺がん、胃がん、前立腺がん、大腸がんなどがその代表となるかと思いますが、発生頻度は低くてもがんの種類によっては胆のうがんやすい臓がんなど、その予後がきわめて不良なものも存在します。
 また検診をどの程度まで行うのか、徹底的に行うのか、いわゆるスクリーニングとして行うのかによってその診断精度は大きく異なります。そのようなことを考えると、がん早期発見のための検診を私自身は行っていません。
 もちろん、家族性の発がんが示唆されている前立腺がんなどでは、少なくともPSAスクリーニングを行うべきだと患者さんにはお勧めしていますが、幸い私自身の家族ではこのようながん患者がいないため、私は検診を受けていません。

――もし、がんになってしまった場合はどうされますか。先生のご専門の泌尿器のがんと、できればその他のがんについて、選択される治療法をお話しください。

 一般的にがんは、同じがんの種類でも異なる悪性度(浸潤や転移をしやすいがんとそうでないがんと、同じがんの種類でもその性質が異なることが知られています)が存在することが言われています。極端な話で、前立腺がんなどは悪性度が低いがんであれば、厳重な監視のみで治療を即座に行わない選択肢があります。
 私どもの専門の、膀胱がんなどの悪性度の高いがんの場合では膀胱を全部摘出するような手術を行っても比較的浸潤の浅い膀胱がんでも、その5年生存率は50%程度であるのが現実です。
 このような現実を考えると、必ずしも根治的な拡大手術がその予後の向上に寄与しない症例を数多く拝見してきました。
 一方、浸潤の高度ながん患者さんでも、拡大手術により長期に生存されている方も多くいらっしゃいます。要は、どのような治療法を選択すべきかは、正確な情報を得たうえで(その時のがんの状況で、どのような治療を行うと生存率がどれだけか、失う機能はどのようなものがあるか、標準治療を受けたときと、受けないときのメリット、デメリット)それぞれの個人が判断すべきものと思っています。
 私は、がんを扱う泌尿器科医として数多くの手術を手掛けてきましたが、自分自身は大変怖がりで痛がりなもんですから、もし私ががんに罹ったら内視鏡手術は別ですが、手術以外の治療法を選択することになるのではと思っています。

――今お話になったことで、仮にがんの発生時期が今よりお若い場合と、年を重ねてからの場合で違いがあればお話しください。

 私は自分の父親が比較的若くして亡くなりましたので、その年を超えた現在はいつ死んでも仕方がない、あるいは自分の血統から来る寿命と思っていますので、今お話しした考えと違いはありません。
 もし50歳前だったらどうするか、もう60歳を超えた現在では思いつきません。

――考えたくないことですが、万が一がんが進行して、医師より「もう治療法はない」と言われたらどのようになされますか。

 ある地域のがんセンターで講演を行ったとき、もし病気で死ぬならどのような病気がよいかという話題になったことがありました。進行したがんの場合は痛みを伴うことが通常ですから、これだけはぜひ避けたいと思っていますが、がんの場合、脳卒中や心筋梗塞などとは違い、すぐに亡くなることは稀で、ある程度の時間的な余裕があります。その話の中で、もし病気で死ぬなら、がんが自分も家族も一番納得がいくのではないかという話で落ち着きました。
 それは突然、死が訪れると、その前になんらかの準備をしておこう、あるいはこれだけはやっておこうと思っていたことを行えないで死んでいくことになりますが、がんの場合は多少なりともその時間的余裕があります。
もう私ががんで、治療の施しようもない状態に至ったら、疼痛管理を最大限していただいたうえで、家族やお世話になった方々へのお礼をはじめ、自分の命のあるうちにこれだけはやっておきたいと思っていたことを、残された時間でできる限り行いたいと思っています。

――本音でお話しいただき、ありがとうございました。先生のお話に、感銘いたしました。
 私自身の今後に、重要な指針となります。本誌の読者の皆様にも、大変参考になるものと思います。

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