シリーズ 医療の現場から
 
銘煌CITクリニック  藤田 成晴 院長に訊く
 
 

決してあきらめないでください
全力でできる限りのサポートをさせていただきます
➖究極のオーダーメイドがん治療
次世代の免疫細胞療法を1日も早く実現させたいと思っています

 東京都の特別区は現在23区ありますが、当初は15区でした。しかし、西南戦争の翌年の1878(明治11)年の法律により置かれたこの15区には、品川や内藤新宿、板橋、千住という江戸時代には宿場町だった地域は含まれていませんでした。その後、昭和に入ってから4つの宿場町を含む近郊を改編して20区を設置し、合わせて35区としました。そして、終戦間もない1947(昭和22)年に35区は22区に整理統合され、同じ年に板橋区から練馬区が分離して現在の23区となりました。
 ご紹介する「銘煌CITクリニック」は港区にありますが、港区は35区時代の芝区、麻布区、赤坂区が統合されて生まれました。こちらのクリニックは地下鉄日比谷線「神谷町駅」から桜田通り沿いに歩いて3分と、とても交通の便が良く、遠方からの患者さんにも便利な場所にあります。院長の藤田成晴医師は、先進的ながん検査・がん予防治療・再発防止治療に特化したがん治療がワンストップで行えるクリニックを目指して開院されました。QOLを重視した治療でクリニックには、海外からも患者さんが多くお見えになります。そこで今回は藤田院長に直接お話を伺い、目指されている医療や行われているがん治療についてお訊きしました。

東京大学薬学部を卒業したが医師になりたくて慶應義塾大学医学部へ

――まず、藤田院長のご経歴からお話しください
藤田 平成4年に東京大学薬学部を卒業し、そのまま東京大学大学院薬学系研究科に進みました。平成6年に修士課程を修了したのですが、薬学の研究者よりも医師のほうが向いているのではないかと次第に思うようになり、1年間勉強し直して平成7年に慶應義塾大学医学部に入学しました。卒業して東京大学医科学研究所附属病院の内科で2年間の研修後、関東労災病院に移って内科を幅広く診ていました。
 平成17年からは東京大学大学院博士課程に進み、理化学研究所の免疫・アレルギー科学総合研究センターで樹状細胞によるアレルギー性疾患の制御に関する研究を行いました。平成21年からは法務省矯正局の内科医官として勤務しながら、東京大学医科学研究所でWT1(ダブリュー・ティー・ワン)というがん抗原に特異的なT細胞の誘導に関する研究を行いました。
 そして、武蔵野大学薬学部の非常勤講師やセレンクリニック東京の副院長などを経て、平成30年に「銘煌CITクリニック」を開業しました。
――先生が薬学部を卒業されてから医師を目指されたのはどうしてですか。
藤田 薬学部の大学院では「糖鎖」という、細胞の表面に生えている枝のような分子を研究していました。それは私ががんに興味があったからで、がんの免疫と深く関わっていることが知られている糖鎖の研究を行っていたのです。しかし、基礎研究と臨床医療との距離をだんだん遠く感じるようになり、直接患者さんと接することができる医師を目指すことを決意しました。

患者さんとご家族、そしてスタッフも皆が幸せになれるクリニックをつくりたいと思い開業

――開業された動機をお話しください。
藤田 東京大学医科学研究所で臨床試験が行われ、私も大学院時代から研究していた樹状細胞を、患者さんのがん治療に提供していたセレンクリニック東京で、がんの臨床に取り組み多くのことを学ばせていただきました。その経験も踏まえて、自身が理想とする免疫細胞療法を中心としたがん治療を行うことで、患者さんの病気がよくなり、ご家族も喜ばれ、頑張って働いてくれるスタッフも努力が報われる。そのような患者さんとご家族とスタッフの皆が幸せになれるクリニックをつくりたいと思ったので開業しました。
――患者さんのことを大切に思うお話はよくお聞きしますが、スタッフのことまではあまりお聞きしません。「医療を受ける側も、従事する側もともに幸せに」とのお考えは、すばらしいと思います。
 ところで、「銘煌CITクリニック」とはどのような意味から命名されたのでしょうか。
藤田 クリニックの学術主任として私を助けてくれている家内が香港出身で、風水の先生から縁起の良い「金」と「火」の字を含む漢字を使いなさいというアドバイスを受けたことから「銘煌」とつけました。日本語では読みにくくなってしまいましたが、中国語ではとても良いイメージの漢字なのだそうです。CITは「複合免疫療法」(Combinatorial Immuno Therapy)という意味です。
――奥様は、カナダのマックマスター大学大学院と香港大学大学院で免疫学を学ばれ、香港大学の助教授を務められるとともに、クリニック内に飾られたとてもすてきな絵画も描かれるなど才媛でいらっしゃいますね。その奥様からアドバイスいただいたクリニック名からもがんに特化されたクリニックであることがよくわかりますが、先生はなぜがん治療に携わるようになられたのですか。
藤田 それは薬学部の頃から「治せない病気を治したい」との強い思いを持っていたからです。治せないがんを何とかしたいという気持ちは、私が昔からずっと持ち続けている思いですので、がん治療に向き合っています。
――先生の揺るぎないご意志を強く感じましたが、こちらにはどのようながん患者さんがお見えになりますか。
藤田 標準治療を受けながら並行して免疫療法を希望される方や、再発予防目的の患者さん、可能な標準治療がもうないと宣告されてしまった患者さんなど、さまざまな方がお見えになります。また、家内が香港出身ですので新型コロナが発生する前は、香港、中国、韓国など外国からも多く患者さんがいらしていました。
免疫細胞療法が自身のライフワークだと思っています
――それではクリニックで提供されているがん治療についてお話しください。
藤田 私は長らく樹状細胞を研究してきて、Tリンパ球を活性化させてものすごい勢いで増殖させる樹状細胞の強烈なパワーを毎日顕微鏡で実際に見てきました。それで、免疫細胞療法が自身のライフワークであるという信念を持っています。
 免疫細胞療法の長所は、低侵襲つまり患者さんの身体的負担が少ないことです。標準治療と呼ばれる手術、抗がん剤、放射線治療もとても重要ですが、どれも副作用があります。しかし免疫細胞療法は、ほとんど副作用がみられません。短所としては、健康保険が効かないので費用が高いことです。この費用面のことをご理解いただいた上で患者さんを診ていますが、経済的なご負担をおかけしてしまうことは心苦しく思っています。
 当クリニックで取り入れている免疫細胞療法は、「樹状細胞ワクチン療法」、「活性化Tリンパ球療法」、「NK細胞療法」で、これらは厚生労働省に再生医療等提供計画書を提出しています。他には、「免疫チェックポイント阻害薬」による治療や、がん治療効果を高める「水素吸入療法」などがあります。
――先生には本誌2021年9月号の「水素療法特集」にご寄稿いただき、大変好評でした。
 それでは、取り入れられていらっしゃる免疫細胞療法についてご説明ください。
藤田 「樹状細胞ワクチン療法」は、免疫において司令官の役割を果たす樹状細胞を患者さんの血液中の白血球から大量に培養し、がんの目印である「がん抗原」を取り込ませた形にして皮内に注射により繰り返し投与する治療です。投与された樹状細胞は体内で兵隊の役割を果たすTリンパ球にがん抗原を教育し、Tリンパ球はこのがん抗原をターゲットにしてがん細胞を見分けて特異的に攻撃します。
 とても効果的な治療法ですが、治療の最初に血液を体外循環させながら白血球だけを集める「アフェレーシス」という処置を3時間くらいお受けいただかなければならず、体力が消耗されていらっしゃる患者さんにはお勧めできない場合があります。
 「活性化Tリンパ球療法」は、末梢血から約30㎖採血してこれを2週間培養し、Tリンパ球を活性化させるとともに数百倍まで数を増やして体内に点滴で戻す治療です。
 この治療を先ほどの樹状細胞ワクチン療法と比較すると、Tリンパ球にがんの目印であるがん抗原を覚えさせていないので、がん細胞を攻撃するのとは関係がない非特異的なTリンパ球も増えることになります。しかし、これにより全身の免疫機能は高まりますし、アフェレーシスをすることなく末梢血の採血だけで治療できますので、全身状態が悪い場合でもお受けになることができます。
 また、抗がん剤などで白血球の数が大きく減ってしまった場合などは、樹状細胞ワクチン療法とこの活性化Tリンパ球療法を併用することで相乗効果も期待できます。
 「NK(ナチュラルキラー)細胞療法」は、活性化Tリンパ球療法と同じく末梢血から約30㎖採血して2週間培養し、NK細胞を数百倍まで増やしてから体内に点滴で戻す治療です。Tリンパ球は「獲得免疫」と呼ばれるメカニズムで、樹状細胞の指令と教育を受けてがん細胞を攻撃するのですが、NK細胞は「自然免疫」と呼ばれるメカニズムで、樹状細胞からの指令がなくても単独で異常ながん細胞を見つけて攻撃します。
 ちなみに、NK細胞は加齢に伴う病気を引き起こす老化細胞を殺傷する能力もあるので、がん治療だけではなくアルツハイマー病にも効果があるなどのアンチエイジング効果も期待できることが近年わかってきました。
 そして、「免疫チェックポイント阻害薬」はオプジーボを低用量で使用して、樹状細胞療法と併用する治療法です。この併用療法も優れた効果が期待でき、セレンクリニック東京で副院長を務めていた時に私が導入に携わったのですが、オプジーボでは間質性肺炎などの免疫関連有害事象という重い副作用がみられることがありますので、主治医の先生にご承諾をいただき連携をとりながら慎重に進めなければなりません。

「WTIペプチド」を樹状細胞に取り込ませがん細胞の攻撃を指令

――治療法の選択肢が多いのは患者さんにとって嬉しいことですが、どの治療法がお勧めなのでしょうか。また、効果はいかがなのでしょうか。
藤田 樹状細胞ワクチン療法では、大阪大学の杉山治夫教授が開発された「WT1ペプチド」などをがんの目印として樹状細胞に取り込ませて、Tリンパ球にがん細胞への攻撃を指令させます。樹状細胞ワクチン療法は、和歌山県立医大での臨床試験も進んでおり、こちらが最もお勧めする治療と考えています。しかし、体力的にアフェレーシスが受けられない方は、活性化Tリンパ球療法やNK細胞療法をお勧めします。この両者の違いは獲得免疫の効果を期待するか自然免疫の効果を期待するかというところで、患者さんによって適するものを使い分けます。
 免疫細胞療法は、主治医の先生も驚かれるような効果がみられる場合もありますが、なかなか効果がみられない場合もあるなど個人差が大きいのが実際です。免疫はもともと個人によって大きな差がみられるという特徴があるためです。なお、進行が非常に速いがんや、緩和医療でステロイドを大量に使われている患者さんなどは、効果が得られないことがあります。ステロイドはTリンパ球の免疫力を強く抑制してしまうからです。
 効果が得られにくい患者さんでは、費用はかかりますが先ほどお話した樹状細胞療法と活性化Tリンパ球療法を併用することで司令官と兵隊のどちらも強化するとともに、水素吸入療法などで免疫細胞療法の治療効果を高めるなどしていきます。

東京大学医科研究所の恩師と「ネオアンチゲン樹状細胞」について研究中

――今後行ってみたいことはありますか。
藤田 現在、東京大学の大学院で指導教官であった山下直秀 東京大学名誉教授とご一緒に、「ネオアンチゲン樹状細胞療法」について研究しています。現在広く使われている「WT1ペプチド」はほとんどのがん種を網羅している大変優れたがん抗原ですが、ネオアンチゲンは個々のがん患者さんの遺伝子変異を解析して、その患者さんに適合したがん抗原を樹状細胞に覚え込ませる治療です。
 これが臨床で使えるようになれば、その患者さんだけに特有にみられる異常ながんの目印をターゲットにできることになりますので、いわば究極のオーダーメードがん治療になります。この次世代の免疫細胞療法を、恩師のご指導の下で1日も早く実現させたいと思っています。
――すばらしいご研究ですね。先生の今後に期待しています。最後にがん患者さんにメッセージをお願いします。
藤田 免疫細胞療法は抗がん剤や放射線と併用することにより相乗効果が期待できますので、抗がん剤や放射線治療を受ける際にご検討されてはいかがでしょうか。抗がん剤や放射線で腫瘍が壊されると、そこにTリンパ球が入りこんでいって攻撃がしやすくなります。一方で、抗がん剤や放射線では骨髄がダメージを受けて白血球が激減して免疫力が著しく落ちてしまいますが、免疫細胞療法はこれを補ってがんに対する免疫を強化してくれます。
 今までお話ししてきた当クリニックの治療は、がんが発見された早期で受けられたほうが効果を得られやすいですが、「標準治療はもうありません」と宣告されて来られた患者さんでも、よくなられた患者さんが実際にたくさんいらっしゃいます。
 厳しい宣告をされてショックを受けられている方も多くいらっしゃると思いますが、現在ではさまざまな先進的な治療がたくさんありますので、決してあきらめないでください。
 私もスタッフも全力でできる限りのサポートをさせていただきます。
 

●銘煌CITクリニック
東京都港区麻布台1-7-1 菅野ビル3F
TEL:03-6277-6871
https://meiko-cit-clinic.com/

 

水素吸引療法もゆったり受けることができる


細胞を無菌的に処理するための安全キャビネット


液体窒素で細胞を凍結保存する


遠心分離機など細胞処理に
欠かせない機器も揃っている


アフェレーシスに使用する医療機器


クリニック内を華やかに飾る奥様が描かれた絵画


奥様の絵をプリントした可愛らしいマグカップは購入することができる

藤田 成晴(ふじた・しげはる)
平成4年東京大学薬学部卒業、平成6年東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了。平成7年慶應義塾大学医学部入学、13年同大学卒業。平成13年から15年まで東京大学医科学研究所附属病院内科勤務。平成15年から17年まで労働者健康福祉機構関東労災病院内科勤務。平成17年東京大学大学院医学系研究会博士課程進学、21年同大学院博士課程修了。平成17年から法務省矯正局東京矯正管区内科矯正医官。平成23年から26年まで武蔵野大学薬学部薬物療法学教室非常勤講師。平成27年から29年まで医療法人社団医創会 セレンクリニック東京副院長。平成30年より銘煌CITクリニック院長